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Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by - 2025.08.27,Wed
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Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed
幸せは、意外と近くにあるものだ。


(8)  フルーツサンド イチゴ入り





とある日のドーリアン邸。
上機嫌で厨房に立っているのは、黄色のエプロンを身に着けたリリーナ。
そして、その横で仏頂面のヒイロがリリーナとおそろいのエプロンを身に着けているという、見事に珍妙な光景。
「ヒイロ、食パンにバターをぬってくださいます?」
「……了解した」
フリルがふんだんについたいわゆる 『 若奥様エプロン 』 でないことが唯一の救いだろうか?
だが本人は、エプロンのデザイン、柄や色など全く気にしてはいないようだ。
傍から見ると新婚さんのような二人。
「では、わたくしは卵サンドを切りますわね」
「手を切るな」
「ええ、気をつけますわ」
調理台の上には、すでに具が挟まれ、安定のためにまな板で重石されているサンドイッチの原型がいくつか並んでいる。
そのなかの一つが、卵サンドだ。
問題は、その量であった。
「しかし、こんなにも作る必要があるのか?」
先ほどから、ずっと気になっていた疑問。
これまでに、卵サンドをはじめ、レタスサンド、ハムサンド、ツナサンド、カツサンドにサラダサンド、広い調理台の上に所狭しと大量にカット前のサンドイッチが並んでいる。
一体、これで何人前のサンドイッチになるのだろうか?
それで、まだ作ろうというのだ。
「あら、これでも少ないかもしれませんわよ」
「これで、まだ少ないのか?!」
「ええ、もちろん。だってヒイロは育ち盛りですもの」
育ち盛り、と言ってしまえば、確かにそうかもしれない。
ここ数年で、ヒイロは身長もずいぶん伸び、体つきも変わってきた。
服のサイズも、何度か変えた。
今、ガンダムに乗れと言われても、かなり窮屈になっているだろう。
しかし、育ち盛りだと言えど、ものには限度というものがある。
この大量のサンドイッチを食えというのだろうか?
元々、どちらかと言えば、ヒイロは食が細い部類だというのに。
「リリーナ……」
彼女の言葉に意義を申し立てようとしたヒイロだが、
「お嬢様、よろしいでしょうか?」
「どうしたの、パーガン?」
厨房に入ってきたパーガンにさえぎられてしまった。





「すっご~い!これ、全部リリーナさんとヒイロ君で作ったの?!」
パーガンの用件は、客人の来訪を告げるものだった。
その客人は、最初客間に通されていたのだが、手伝うと厨房にやってきたのだ。
「もう少しで完成ですわ」
「わかったわ、わたしもお手伝いするわね」
「ええ、お願いしますね、ヒルデさん」
来訪者とは、デュオ・マックスウェルとヒルデ・シュバイカー。
早速、ヒルデには、リリーナがカットしたサンドイッチを大皿に盛り付けていく役目を。
さすがに、日頃家事をこなしているだけあって、手馴れたものだ。
デュオは、邪魔だと客間で待ちぼうけになっている。
先ほどの、 『 育ち盛り 』 『 少ないかもしれない 』 発言の意味が、少しだけわかったヒイロだった。
だが、それでも多すぎるような気がするのは気のせいか?
「あ、そうそう、私はクランベリーパイ作ってきたの。あとで出してくるね」
「まぁ、ヒルデさんのパイ、すごく美味しいってデュオ君に聞いていたの。とっても楽しみだわ」
「えへへ、これだけがとりえだから」
「………………」
先ほどから、ヒイロは黙々と、まだある食パンにバターを塗り続けている。
まだ、手をつけていない食パンが4斤。
いったい、あとどれくらい作るのだろうか?




バタンッ!

「リリーナ様、このドロシーただいま参りましたわ!」
「こんにちわ~、リリーナさん、ヒイロ」
「あら、ドロシー、ようこそ!」
厨房のドアをにぎやかに開け放ち、そこには大きなバスケットを抱えたドロシー……と、その後ろでこれまた彼女の持つものより一回り大きなバスケットを抱えニコニコ笑顔のカトル。
「あら、あなたはデュオ・マックスウェルの……」
「ヒルデ・シュバイカーです。こんにちわ」
お互いホワイトファングという繋がりで面識はあったが、直接会話をするのはこれが初めてだ。
「ドロシー・カタロニアですわ。と、言っても、あなたはもうご存知ね」
二人はにこやかに握手を交わしている。
今後、この二人は色々と交流があり、仲の良い友人となるのだが、ここでは余談である。
「やぁ、ヒイロ。似合ってるね、そのエプロン」
「嫌味か、カトル」
「やだなぁ、リリーナさんとおそろいだし、相変わらず仲良いねって言いたいんだよ。あ、リリーナさん、このバスケット、ここに置いておいてかまわないかな?」
「ええ、どうぞ」
カトルは持っていたバスケットを、トンと調理台のあいた場所に置いた。
そのバスケット、なかなか重量があったのだろうか?
ふ~、とカトルは一息つく。
「私はオードブルを作ってきましたわ。私の自信作なの」
ドロシーも、手にしていたバスケットを調理台に置くと、その蓋を開けた。
中には、すでに大皿に盛り付けられている。
「わぁ、ドロシーさん、すご~い!」
「たいしたことではありませんことよ」
ヒルデの賞賛に、照れくさそうにドロシーは微笑んだ。
「ヒルデさんがいらっしゃるということは、デュオも?」
カトルの問いかけに、「客間だ」と手短にヒイロは返した。
「じゃぁ、僕、デュオのところに行ってくるよ」
ヒイロにがんばってねと言い残し、カトルは厨房を出て行く。
いわゆる 『 育ち盛り 』 が3人目。
ヒイロは、 『 少ないかもしれない 』 の認識を少々変更した。
でも、それでもまだ、このサンドイッチの量は多すぎる。




さて、盛り付けにドロシーも加わり、だんだんにぎやかになっていく厨房。
ヒイロは、食パン全部にバターを塗り終えた。
これは一体何サンドになるのだろう。
「リリーナ」
自分の横で、パンナイフを片手にツナサンドを切っていたリリーナに声をかける。
「あ、はい。ありがとう、ヒイロ」
リリーナは手を止め、パタパタと冷蔵庫に走る。
大きな銀色の業務用冷蔵庫を開くと、そこから大きなボールを取り出した。
中には、白い生クリームにカラフルなフルーツが混ぜ込まれたもの。
「最後は、フルーツサンドですわ」
ニッコリ、これがメインだといわんばかりに。
「了解した」
ヒイロも、ここまでくると手慣れたものだ。
何度も違う具で繰り返した作業に、手早く取り掛かる。
「では、私たちは場所のセッティングに行きますわね」
「ええ、ありがとう、ドロシー」
すでに盛り付けられた大皿を、幾枚も載せたカートを押して、ドロシーとヒルデが出て行った。
リリーナも、これまでに作ったものを切り終え、盛り付けた。
あとは、ヒイロの作業を手伝い、フルーツサンドを作り上げるだけだ。




フルーツサンドも出来上がったころ、再びパーガンが来訪者の訪れを告げた。
「やっほ~、こんにちわv」
「まぁ、サリィさん。ようこそ」
玄関先で、来訪者を出迎えるリリーナ。
その後ろを、エプロン姿でフルーツサンドの大皿を持ち歩くヒイロ。
「あら、意外なものを見ちゃったわ」
普段のヒイロからは想像しづらいその姿。
「…………」
サリィ相手に、下手なことを言っても暖簾に腕押しだとわかっているヒイロは、何も言わない。
「他の皆さんは?」
どうやら、サリィのほかにもいるらしい。
「ああ、さっきね、この近くでトロワの車がパンクしちゃったみたいで。五飛はパンク修理の手伝いで少し遅れるわ」
「まぁ、大変だわ」
「大丈夫よ、あの子達だから、あっという間に終わっちゃうわよ」
日頃の迅速な行動がものを言う。
「リリーナ様、本日はお招きありがとうございます」
サリィの後ろから、レディ・アン。
「遅いわよ、レディ」
「お前の歩くペースが早すぎるのだ」
どうやら、ここまで一緒に来たらしい。
「ようこそ、レディ・アンさん」
そして、レディの後ろでもじもじと隠れている少女に気がついた。
「マリーメイアも、よくきてくれたわね」
騒乱の時分は微塵も感じられなかったが、マリーメイアは意外と恥ずかしがり屋な女の子だった。
「本日はお招きありがとうございます、リリーナ様」
はにかむように、笑顔を浮かべたマリーメイア。
普段、レディに頼まれてGパイロット達が彼女の相手をするときは、なかなかのお転婆振りを発揮しているマリーメイアも、憧れのリリーナ様の前ではおとなしい。
「あら、そのワンピース、ステキね。あなたによく似合っているわ」
マリーメイアは、この日、レディに用意してもらった白と薄桃色のワンピースを着ていた。
ぱぁっとマリーメイアの表情が明るくなる。
「ありがとうございます、リリーナ様。今日はね、私達はフルーツを持ってきたの」
「ごめんなさいね。私達忙しくて、こういうものしか用意できなかったのよ」
そういうサリィとレディの手には果物がたくさん入ったかご。
「その分、質の良いものを選んできました」
「ありがとう、皆さん。とっても美味しそうなフルーツだわ」
鮮やかな紅色のりんごや、大きなオレンジは魅力的だ。
「今、庭でヒルデさんとドロシーが準備してくれているところなの。そっちに行きましょう」
やっと、ヒイロは手の大皿の行き先が庭だとわかったのだ。





そんなこんなで庭に行けば、芝生の上には巨大なレジャーシート。
すでにデュオとカトルも、ヒルデやドロシーの手伝いをしているようだ。
デュオは、料理をつまみ食いしようとしてヒルデに手をはたかれているようだが。
集まったメンツを数えてみれば、なかなかの大所帯。
聞くところによると、このあとトロワや五飛も来るらしい。
「わぁ、すごい桜……」
庭に植えられている桜は満開。
それを見て、マリーメイアが歓声を上げた。
「これは見事な桜だ……」
レディもその姿に感嘆のため息をついた。
「今までお花見なんて、あまり出来なかったから、今年は是非ともやりたかったの」
と、リリーナ。
「すごいわねぇ~。そういえば、花見なんて、何年ぶりかしら」
是非とも、来年のプリベンター慰安企画に花見を入れなくっちゃとサリィ。
何しろ、リリーナの15歳のバースデー以来続いた激動の歴史の流れに、のんびりと花見をしゃれ込む余裕はおろか、桜を見上げることすらままならなかったのだ。
そうこうしているうちに、ようやくパンク修理が終わったのだろう、パーガンに案内されてトロワとキャスリン、五飛もやってきた。
キャスリンは、ベイク・ド・チーズケーキを持ってきていた。
「うちのサーカスで飼っているヤギの乳でつくったチーズを使っているのよ」
「へぇ、ヤギのチーズかぁ」
カトルが、ものめずらしそうに、チーズケーキを覗き込んだ。
チーズケーキ自体はそこまで珍しいものではないのだが、使用している材料が珍しい。
「毎日トロワが絞ってね、それを私がチーズにしてるの。癖があるけど、とってもおいしいのよ」
ヤギを相手に、トロワの乳搾り姿……。
想像すると、なかなか笑える。
五飛は、茶葉の入った袋をリリーナに手渡してきた。
「何を作ればよいか、思いつかなかった」
彼なりに、皆に振舞えるものを考えたようだ。
その茶葉は、厳選されたと思われる美味しいことで有名なものだった。
「ありがとう、さっそく入れさせてもらいますわね」
そう言えば、飲み物の類を準備することを忘れていた。
「ヒイロ、ティーセットの準備を手伝ってくださいな」
「ああ、了解した」
慌てて厨房に戻るリリーナの後をヒイロは追いかける。
「意外と、似合っているな。ヤツのエプロン姿も」
ヒイロの姿を見て、ポツリとトロワがもらした感想に、満場一致で頷いた。



皆の元に届いたリリーナからの招待状には、こう書かれていたらしい。


『 皆で、それぞれに腕を振るったものを持ち寄って、お花見をしましょう 』


その事を知らずにリリーナの手伝いをしていたヒイロだった。
それぞれが心を込めて作った料理と、満開の桜とで、ちょっとしたパーティー。
それでも十分楽しい。
さらに、集まりあえる、心を持ち寄れる、それはとてもステキなこと。

満開の桜の下、さぁ、花見を始めよう。







さて、これだけ人数がそろって、やっとヒイロは 『 育ち盛り 』 『 少ないかもしれない 』 発言の真意を知ることになったのだ。
『 育ち盛り 』 が5人、いや、育ち盛りはマリーメイアも入れて6人。
大量のサンドイッチの量が、ようやく人数と見合った。
「はい、これはヒイロの分ね」
手渡された皿には、取り分けられた料理。
乗せられていたサンドイッチは、レタスサンドとツナサンド、そして、フルーツサンド。
「あのね」
こっそりとリリーナはヒイロの耳元でささやいた。
「ヒイロのフルーツサンドだけ、特別にイチゴを入れてあるのよ」
そうリリーナはいたずらっ子のように微笑んだ。
そして、こう付け加えた。
「ひみつよ」
「了解」
そういう二人の上を、桜が舞い散る。



そういえば、皆との始まりも、二人の出会いも、こんな季節だった。



笑顔を分かち合える人々がいる。
それは、とても幸せな事ではないだろうか?
ふと、そんなことが頭の端をよぎった。
いまの自分は、幸せというものを感じることが出来るのだ。
それが、自分が知った一番大切な 『 感情 』 かもしれない。
そして、それはヒイロだけが知った感情ではないだろう。






幸せは、意外と近くにあるものだ。





Are You Happy?




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最後は、やはり ヒイロ×リリーナ で〆っす。

まず最初に、秋に桜の花見ネタをするな、という突っ込みをされそうなので、補足しておきます。

10月でも、桜は咲きます。(断言)
ウソじゃないです。
まじで。
地方によっては暖かい日が続くと冬前でも桜咲くんです。
元々、桜は年に2回咲くものなのだそうです。
現に、小森はこの時期に咲く桜を何年も見続けています。
春先のようにいっぱいではなく、ぽつぽつとですが、この時期でも桜は咲くんですよ。
ちょこっと、豆知識。(笑)


でも、この話は4月の話です。(爆)


最後はオールスター総出演…と行きたいところでしたが、そうなると話が膨らんで収拾つけにくくなるので、とりあえず来ることが出来るであろうと思われる人物に参上させて見ました。
とかなんとか言って、火星圏にいる予定のゼクスとノインはさておいて、あとはほぼ出場していただきましたが。(笑)
つまり、ほとんどオールスターじゃん。( ← 自主突っ込み )


この話の一貫したコンセプトは、 「 身近の幸せとは? 」 です。

自分自身、身近のちょっとしたことに、ふと幸せを感じたりすることが最近多くて、そういうものを表現できたらいいかなぁと思い書いてみました。
幸せも、不幸も、表裏一体。
自身を幸せと感じるのも、不幸だと思うのも、その人の心次第だということだと、私は思っています。
心の持ちようひとつで、世界は大きく変わってくる。
このガンダムWの世界観に是非ともそういう観点を持ち込みたくて、書いてみました。

気に食わない人にはごめんしてねってことで。(^^)

では、計8話に続く長丁場、お付き合いありがとうございました。
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