Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed
その小さい存在は、天下無敵の甘えん坊。
愛らしい緑の瞳をくりくりさせて、甘えたいと思ったときが甘え時。
こちらの都合なんて知ったことではない。
お気に入りの場所は、人のそば。
温かいひざの上。
やわらかいベッドの中。
ここが自分の居場所だと、当然のように転がっている。
「みゃぁ~」
今日も、今日とて、ヤマトの居場所はあの人のそば。
ふと、気がつけば、先ほどまで自分のひざにもたれかかるようにして寝息を立てていた黒い仔猫の姿がない。
読んでいた雑誌に夢中になっていて、ぬくもりが離れたことにも気がつかなかった。
「ヤマト?」
呼んでみるが、返事はない。
そもそも、猫に人間のような受け答えを期待するほうが間違っているのかもしれないが。
きっと、またどこか別のお気に入りの場所でくつろいでいるのだろう。
リリーナは手にしていた雑誌を閉じると、両腕をそろえて伸ばした。
少し、こわばっていた腕や背中が伸びて気持ちがいい。
それだけ長い時間雑誌を読んでいたのだ。
「紅茶でも、飲もうかしら……」
戸棚に、先日ドロシーが贈ってくれた茶葉があった。
リリーナは、キッチンへ移動すると、湯を沸かすためにケトルをコンロにかけた。
「そういえば、ヒイロは何をしているのかしら」
今日は自宅で報告書の作成のため、自室で机に向かっているはず。
一時休憩として、お茶を一緒にぐらいは許されるだろう。
リリーナは、お気に入りのバラ模様が美しいティーポットと、おそろいのティーカップを戸棚から取り出すと、ヒイロの部屋へ向かった。
「ヒイロ、ちょっといいですか?」
コンコンと、二度小さなノックをして声をかける。
わずかに開いているドアを押して中を覗き込むと、「どうした?」と返ってきた。
「少し休憩にしませんか、お茶にしましょう?」
「ああ……、そうだな」
返事は返ってくるが、どこか心ここにあらずな返事。
「?」
ヒイロがそんな答えを返すのは珍しい。
不思議に思って、リリーナは彼が向かっている机を覗き込んでみた。
「まぁ」
「……ああ」
机の上にじたばたと動く黒い毛玉。
「みぃ!」
書類を読んでいるヒイロの、空いている右手にヤマトがじゃれ付いていた。
「みぃっ!みぃっ!」
ヒイロの視線は、書類に向かったまま。
ただ、手だけが机の上をジタバタコロコロ転がるヤマトの相手をしている。
「痛くない?」
「……ああ」
帰ってくる返事は相変わらず、どこか気が抜けている。
「にぃっ!にぃっ!にぃっ!」
動きは適当だが、ヤマトにとっては格好の獲物と化しているヒイロの右手は、じゃれ付くヤマトのまだ幼い爪で、よく見れば小さな傷もちらほらと。
だが、そんな傷、一向に気にしていないのはヒイロ。
彼にしてみれば仔猫の爪でできた傷など、気にすることではないのだろう。
ヒイロらしいといえば、ヒイロらしいのだが。
「お茶にしませんか?」
「……そうだな」
ちゃんと返事を返してはくれるのだが、やはり空返事。
「ねぇ、ヒイロ?」
「…ああ」
さて、どうしてくれよう。
「もうっ!」
二人分のティーカップに、紅茶を注ぐリリーナを手短に表現するなら、『見事なまでの膨れっ面』だろう。
いつもなら心やわらぐフワッとした紅茶の香りも、彼女の機嫌を癒すほどではないようだ。
先ほどから、何度呼びかけてもヒイロから返ってくるのは空返事ばかり。
ドロシーからもらった、せっかくの紅茶も冷めてしまっては楽しみが半減してしまう。
入れなおせばいいだけだが、それはそれで何か釈然としない。
自分が勝手に拗ねているように思えて、それが無意識に彼女の膨れっ面を更に増幅させていた。
「もうっ!」
せっかく入れた紅茶も待っているうちに冷めてしまう。
なんだか癪に障るので、膨れっ面のままカップに口を付けた。
ヒイロの分まで、紅茶を堪能してしばらく。
足元に柔らかな感触が触れた。
ヤマトの黒い毛並みが両足の周りをすり抜け、そのまま彼女の隣に腰を落ち着けグルーミングをはじめる。
ヒイロの手で遊ぶことに飽きたのだろうか?
それとも、気のない遊び相手を見限ってきたのだろうか?
「…お前も諦めたの?」
「なぁ~ん」
「まだいいわよ、お前は遊んでもらえたんだし」
「な~ぁ?」
例え心あらずとも、遊んでもらえただけでも贅沢者…贅沢猫だわ。
だったら、自分もヤマトのように実力行使に出ればいいだけなのだが、邪魔はしたくないし、そんな自分が面白くない。
それに、心あらずで対応されるのも嫌だ。
でも、やっぱり相手してもらおうとじゃれ付いていく猫の無邪気さが羨ましい。
「もうっ!」
リリーナは、その腕にヤマトを抱きかかえ、何度目になるであろう膨れっ面に、ため息をついた。
さてさて、本当にどうしてくれよう。
---------------------------------------------------
このあと、なぜ自分の手が傷だらけになっているのだ?と不思議がるヒイロが書斎から出てきたとかなんとか……。
PR
Comments
Post a Comment
カテゴリー
ブログ内検索
最新記事
(09/17)
(09/17)
(09/17)
(09/17)
(09/17)
最新コメント
アクセス解析
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
Powered by "Samurai Factory"