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Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by - 2025.08.26,Tue
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Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed
幸せは、意外と近くにあるものだ。


(7) My princess





ショーウインドウの前で、小さなため息。
ガラス向こうのディスプレイで見つけた一そろいのドレス。
「わぁ、いいなぁ……」
両手に抱え込んだ夕食用の食材が詰まった買い物袋を抱えなおし、ショーウインドウを覗き込んだ。
ショーウインドウのディスプレイには、有名なブランドが今度発売する新作デザインのドレス。
薄い水色のシルク。
大人しすぎもせず、かと言って子供じみていないデザイン。
一緒に飾ってある靴も、紺色の細い飾り紐が踝までの短い編み上げのもので。
「一度でいいから、こういうの着てみたいなぁ」
だが、このブランドは有名なだけあってセレブご用達。
下手すれば、ドレス一着だけで1ヶ月分の食費を賄える。
とても、簡単に買える物ではない。
たとえ、買ったとしても、着る機会は無いに等しい。
「そうよ、こんなドレス、着る機会無いんだから、買ってもしょうがないじゃない」
自身に納得させるかのようにつぶやいてみる。
「やばっ、早く帰らないと晩ご飯のしたくが遅くなっちゃう」
名残惜しくても、時間はドンドン過ぎていく。
ヒルデは腕時計の針を見て、慌てて帰路に戻った。
自宅に戻れば、ちょっとした騒ぎが待っているとも知らずに。




「え、ホント?」
帰り着いた彼女を玄関先で待っていたのは、ウィナー家ダンスパーティの招待状。
「来週の日曜夕方5時から、このコロニーにあるウィナー家の別荘のひとつで。ヒルデも是非だってさ」
「私もいいの?」
「カトル直々のご指名でご招待よ~ん♪」
そう言って、デュオがヒルデに手渡した封筒には確かに彼女の名前で招待状。
「すっご~い!」
ぎゅっと招待状を胸に握り締めて、ヒルデは喜んだ。
それを託ったデュオもまんざらではないようだ。
「てな訳で……」
「?」
「パーティ用のドレス、カトルん家で借りるから、寸法取らせろよ」
「へっ?」
突然の予想だにしない言葉に、ヒルデの目は点。
「じゃぁ、イリアさん、よろしくってことで~」
「ええ、わかりました」
「はい?」
リビングのドアからひょっこり顔を出した女性は、カトルの姉イリア。
「突然でごめんなさいね。すぐに終わらせるから」
「えええっ!」
「じゃぁ、デュオ君、お部屋お借りするわね」
「ほいほい、ごゆっくり~」
「えええ~っ?!」
そのまま、引きずられるようにヒルデの部屋に連れて行かれる。
買い物袋と夕食は、必然的にデュオが引き受けることになったのであった。





「びっくりした?」
「したっ」
デュオの用意した夕食は、ヒルデが当初予定していたものよりは簡単なものになってしまったが、立派に食せるシチュー。
ヒルデの寸法を測ったイリアは、せめて夕食ぐらいは……と誘ってみたが、ニッコリ笑って、あなたに似合うものを用意して待っているわねと言い残して、ウィナー邸に戻ってしまった。
「なにもかも突然なんだもの。それに、ドレスならレンタルで借りれるじゃない」
「あ~、あんなの絶対ダメ。レンタル料金無駄に高いし、第一いいものが無い!」
スプーンを高々と掲げてキッパリ断言、力説するデュオ。
「そうかな?けっこう可愛いのあるわよ」
なぜ、そんなに力説するのだろう?と首をかしげながらも、シチューの乗ったスプーンを口に運ぶ。
「カトルん家で借りるならタダな上に、カトルの姉ちゃんズ、さすがに人数多いだけあってデザインもイイのがある、これもOK。問題なし!」
「そんなものなの?」
「そっ!」
ちょっと釈然としないものを感じながらも、デュオがお膳立てしてくれるのならイイかと頷いたヒルデだった。
「とりあえず、こういう場所にでる機会もそうそう無いじゃん。楽しみにしてろよ」
「うん、わかった。楽しみにしてるね」
そういって笑ったヒルデを、デュオは満足そうに見た。







しかし、運命というのはなかなか上手く回らないもので。
今現在、二人はL2コロニーの近くにある資源衛星に居たりする。
パーティ当日にいきなりねじ込まれた大口依頼。
コロニー間輸送船を使う依頼ははっきり言って時間がかかりすぎる。
今日は用事があるからと、断ろうとしたが、向こうは大事なお得意様。
結局、引き受けざるをえなかった。
用事というのは、もちろんウィナー家のパーティのことだ。
向こうの事情は、こっちから言わせれば勝手なものであったが、これも客商売、いくら悪態をついたといえ仕方が無い。
時計の針は、すでにこちらを出発する予定時間を2時間オーバーしている。
今からフルスロットルで戻り、パーティーに行ったとしても到着するのは終わりごろだろう。
「はぁ……」
もう、間に合わないか。
ヒルデは諦めのため息をついた。



結局、取引が終わって、慣れ親しんだ我が家に戻ってきたのは夕方遅く。
事務所も兼ねている倉庫の一角、つなぎの作業着姿でどさりとイスに座ったデュオ。
「あ~あ、結局パーティ行き損ねちまったな」
「こっちも大事なお得意様だったんだし。せっかく呼んでくれたカトル君には悪いけど……」
「ヒルデ、行きたかったんじゃないのか?」
「いいのよ。デュオこそ、ご馳走食べられなくて残念だったわね~」
「そうだよなぁ~、ご馳走~……」
「また、臨時収入でもあったときに作ったげるわよ」
「あ、そのときはステーキ、ヨロシク~」
「はいはい」
そんなやり取りのなか、デュオはちらりと横目でパートナーを見る。
帰ってきてからというもの、帳簿と伝票を相手に、一心不乱ににらめっこしているヒルデ。
自分との会話の間も、こっちを向いてくれていない。
「…………」
やはり、せっかくのパーティに行けなかったことが残念だったのだろう。
デュオは、ちょっと考えこむと、なにか思いついたのかニカッと笑みを浮かべた。
「ヒ~ルデ」
「何?」
相変わらず彼女は帳簿から目を離そうともせず。
「こっち向~いて」
「だから、なぁに?」
ようやくヒルデがデュオの方を向いた。
「ヒルデちゃんに、俺から愛のプレゼント~♪」
「?」
首を傾げるヒルデの膝に、デュオは大きめで平たい箱を乗せた。
「ちょっと早いけど、ハッピーバースデーってことで」
「あ、ありがとう……」
ヒルデは、デュオの顔を膝の上の箱を見比べた。
「でも、これって、服でしょう?しかも、このブランドだったら、かなり高かったんじゃないの?」
箱に印刷されているブランドのロゴを見ただけで、ヒルデは十分にびっくりしている。
慌てて、デュオを見上げるヒルデに、デュオはニカッと笑った。
「いいから、いいから。ほら、開けてみろよ」
デュオのすすめに、膝の上に乗せられた箱を開く。
「これ……」
「本当は、ウィナー家についてから、びっくりさせようと思ってたんだけどな」
もうしわけない、とデュオ。
だから、レンタルはダメ、ウィナー家で借りると言ったのかと納得。
箱の中身は、一着のドレス。
それを持ち上げ広げてみれば、あのとき、あのディスプレイに飾ってあったドレスと同じもの。
「あ、これもいっしょな」
さらに差し出されたものは、ドレスと一緒に飾ってあった靴。
「ヒルデにと思ってさ。かなり前から予約してたんだぜ」
「予約って……」
「このブランド、カトルの姉ちゃんズご用達でさ。カトルに相談したら、デザインからねじ込むってな」
ヒルデに似合いそうなデザインをカトルの姉がデザインし、だが、オーダーメイド・ドレスになると、デュオの手持ちでは手が届かないからと、そのまま新作デザインとして発表させたというのだ。
ある意味、大掛かりなオーダーメイド・ドレスのようなものだろう。
「さすがウィナー家だよなぁ、しかも、パーティーまで誘ってくれるし」
満面に笑みを浮かべ、デュオは説明する。
「でも、これ、かなり高いものでしょ?そんなお金どこから……」
「は~い、俺のへそくり全額そっくりつぎ込みました~!またへそくり貯蓄0からやり直しっス」
「へそくりって……」
彼にへそくりなんてものがあったことに驚く。
「あ、店の売り上げちょろまかしたんじゃねえぞ。全部プリベンターのバイトで稼いだんだからな」
あわてて、言い訳をするデュオ。
「誕生日に、なにか贈りたいって思ってさ。ちょうど、いい機会だったし……」
その為に、わざわざカトルに相談したのだ。
「せっかくのパーティには、行き損ねちまったけどさ」
恭しい礼と共に、目の前に差し出されたその手。
「Shall We Dance? My princess」
驚きと、夢を見ているかのような気分とで、未だこの状況を信じられずに居るのだが……。
目の前で、自分に手を差し伸べているデュオの、その陽気な蒼い瞳に、安心した。
「場所がジャンクパーツの転がった倉庫ってのが色気ねぇけど、音楽はあるから大丈夫」
彼なりの、いや、彼流のエスコートと言うことだろう。
嬉しさで、自然に笑みが浮かんだ。
「yes. My prince」
返事は、これ以外にあるはずがない。






幸せは、意外と近くにあるものだ。



The Following Happiness is followed →


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お次は、 デュオ×ヒルデ で、プリンス&プリンセス(笑)でした~。

ヒルデにドレス着せて、デュオはつなぎ(作業着)のままで踊ったのか?という突っ込みはしないでください。
いや、ドレスとつなぎ……えらいミスマッチだけど、ある意味おいしいなぁ、と考えてしまったのは小森のおバカな頭。(笑)
間に合わせとして、プリベンター業務 ( 警備とかの ) スーツでも……って、オイオイオイオイ。

ウィナー家の姉ちゃんズなら、デザインもちこみで、オーダーメイドやってそうだよな……、と勝手に設定捏造してしまいました。
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