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Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by - 2025.08.14,Thu
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Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed
 

 
ふとした気配に、沈み込んでいた意識が浮上する。
横には、大粒の涙をその瞳にたたえた少女。
「どうした?」
怪訝に思って声をかける。
「夢を見たの」
ベッドの上、大きな枕をその両腕に抱えて。
「すっごく嫌な夢だったの」
両頬をぷっくりと膨らませて。
「それで?」
急に目を覚ました彼女を気遣って、その横で彼女の言い分をおとなしく聞く。
「最初はね、いいのよ。ファンタジーのお姫様みたいな服を着てね、お城みたいな場所にいるの」
「ほう」
ぎゅっと、両腕の枕を今以上にぎゅっと抱きしめる。
「それがね、隣の国の王子様が、ずーっと眠ってるって、それを助けることが出来るのはわたくしのキスだけだって」
「…………どこかで聞いたことのあるような話だな」
もっとも、その話は立場が逆だと思ったが、あえて口にはしなかった。
「それでね、隣の国の王子様というのが、ヒイロなのよ」
「……冗談でも勘弁して欲しいキャスティングだな……」
そのヒイロは彼女の横で座ったまま、呆れたような笑みを口の端に浮かべている。
「それで、ヒイロに眠ったままでいて欲しくなかったから、だから、助けに行きたいって、行ったの」
延々と道中での話が続く。
夢の中でのリリーナは、勇猛果敢に襲い来る難関をすべて突破し、ようやくヒイロの眠る場所にたどり着いたらしい。
「だけどね、ヒイロにキスしようとしたらね……」
しゃくりあげながら、リリーナは話を続ける。
「そうしたら、突然、悪い魔法使いのお兄様が現れて、お兄様ったら『ヒイロを目覚めさせたければ兄を倒せ~!』って言うのよ」
「……………………(汗)」
普段、自分が彼女の兄に言われている定番シチュエーションがここに横流しされている。
ヒイロは、小さなため息をつきながら天井を見上げた。
「で、戦ったのか?ゼクスと」
「もちろん、戦いましたわ」
その戦いの手段が、なぜかじゃんけん(+あっちむいてほい)3本勝負だったのは、さすがにヒイロも笑いを隠しえなかったが。
「……長く、苦しい戦いでしたわ……」
握りこぶしを固めて、ぐっとこぶしを掲げるリリーナ。
すでに、彼女の瞳に涙はない。
「で、勝負の結果は?」
「わたくしが勝ちましたわ!」
そして、小さいころからじゃんけんは強いのよと付け加える。
ところが、意気揚々としていたリリーナの表情が、急に暗くなる。
「……でもね、わたくしがお兄様とのじゃんけん3本勝負に気を取られている間に、ヒイロは目を覚ましてしまうの」
確か、リリーナのキスじゃないと、眠っている俺は目を覚まさないんじゃなかったのか?という突っ込みは、今のヒイロにはできない。
また、彼女の瞳に大粒の涙が戻ってくる。
そして、その形の良い唇からつむぎだされる爆弾発言。

「ヒイロを目覚めさせたのは、わたくしではなく、カトル君だったのよ!!」

「………はい?!」
一瞬の間をおいて、ヒイロはようやく彼女の言った言葉の意味を理解した。
ヒイロじゃなくとも、聞き返したくなるだろう。
「目覚めたヒイロとカトル君の周りに、リンゴーンリンゴーンって鐘を鳴らしながら小さな天使の姿をしたデュオ君やトロワさんや五飛さんが飛んできてね……」
感極まって、泣き出しながらリリーナはさらに続ける。
「それでもって、二人手をとってどこかへ行ってしまうの!!」
「……………………」
ヒイロはこれ以上考えないほうが身のためだと、そこで思考をストップさせた。
想像するだけでも、身の毛のよだつほどの怖いものがある。
「…………そ、想像もしたくない役割分担だ…な…」
ヒイロはようやく、それだけ口にすることが出来た。
そして、少しだけ後悔した。
話を聞くんじゃなかった…………。
後悔してみても、後の祭り。
あとは、どうやって目の前で泣いている彼女を慰めればいいのかと思案に暮れるしかない。
目の前のリリーナは、夢とわかっていながらも、ショックだったらしい。
とまらない涙を手の甲でぬぐい続けている。
しょうがないと言いたげに、ヒイロは大きなため息をついた。
「……リリーナ……」
彼女のその両手を、自分の両手で包み込む。
「夢は、所詮、夢だ」
諭すように、ゆっくりと、やさしく、ヒイロは言葉を選ぶ。
「少なくとも、俺にはカトルを選ぶ趣味はないし、あいつもその気はないだろう」
ヒイロの言葉に、こくこくとリリーナも頷く。
「……でも、夢は、その人の……願望が、現れるって……」
しゃくりあげるリリーナの言葉に。
「決定的な科学的根拠は無いな」
一刀両断に切りすてた。
それでも、納得できないような表情のリリーナに
「じゃぁ、今、お前が目覚めさせろ」
簡潔に、いとも簡単に、ヒイロは言ってのけた。
その言葉に、はっとしたようにヒイロを見るリリーナ。
「そんなに気になるなら、今試せばいい」
そう言いきると、ヒイロはそのまま座り込んでいたベッドに寝転んだ。
「王子はここで眠っています。では、お気の済むまで、プリンセス?」
片目を閉じ、その口元に、薄い笑みを浮かべて。
そんな彼に、リリーナは微笑んだ。
「やっぱり、ミスキャストですわね」



あとのことは、ご想像にお任せ、というとことで。





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萌え系笑い話を書こうとして、結局はちっとも萌えどころも笑いどころもなかったという笑えない話。

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