忍者ブログ
Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by - 2025.08.14,Thu
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed

故 緋城リエ様へささげます。

嗚呼、麗しき地球の姫よ。
孤独な流星の王子をどうか導きたまえ……。









こんな綺麗な月の晩は、ついふらりと散歩に出て行きたくなってしまう。
そんな思いを抱えながら、リリーナは小さなベランダから夜空を見上げていた。





リリーナ=ドーリアン外務次官は数日前、医師に『過労』の二文字がしっかりと書き記された診断書を突きつけられていた。
日頃、常人離れした過密スケジュールで行動していた彼女は、本人にも自覚がないまま過労状態にまで追い込まれていたのだ。
当然、それを知って黙っていない人間が数人。
もちろんそれはリリーナ様熱狂的支持者である、特徴的な行動力の権化のカタロニア嬢とリリーナ直属の優秀な秘書である女性。
そしてリリーナ公私共に専属、目付きの悪い『星の王子様』
多くは語るまい。
手段も選ばず、リリーナに有無をも言わせない三人の手により、彼女は地球のドーリアン邸に強制送還され、一週間の短期休養と相成ったのである。





満月ではなく、少し下が欠けているように見える月の光は、とても明るく優しかった。
街灯など人工のものでは、こんな光をつくりだすことは出来まい。
リリーナはそのほのかな月明かりに誘われるように、二階にある自室の窓からベランダに出た。
普段一人で外を出歩くと、きまってヒイロにすぐに見つかり、そして叱られてしまう。
でも、ここはわたくしの家ですもの。
庭やベランダに出るくらいはヒイロに叱られることもないでしょう。
心の中で、そう言い訳しながら。
「たまには、こういう月夜にお散歩するのもいいものですわよね」
くすくすと微笑みながら、リリーナはベランダのさほど高くない手摺に身を任せた。
「俺が近くに居る時はな」
聞き慣れた少し機嫌の悪い低い声。
予想はしていたものの、それでも驚いてしまう。
リリーナは慌てて声の方を見た。
「ヒイロ、いつからそこに?」
「ついさっき」
少しの沈黙。
ヒイロの表情からは怒っているのか、そうでないのか、読み取ることは出来ない。ただ、とにかく気まずい。
こんな時間に、しかも部屋着とショールをかぶっただけという姿でいるということを、彼はよく思ってはいないだろうとは思った。
しかし、ヒイロの口から出た言葉はそんな予想を覆していた。
「……意外と明るいな…」
ベランダの手摺に背中で凭れかかり、ヒイロは夜空を仰ぎ見た。
明るい月明かりのなか、それでも少し星が見える。
「こんな夜はお散歩したくなります」
リリーナも、空を見上げた。
「だからといって、勝手に出歩かれたんじゃ、こっちも警備のしようがないが」
鋭いツッコミ。
「そ、それは、ごめんなさい。もうしませんわ」
しゅんと小さくなってしまうリリーナのしぐさに、ヒイロは口の端に笑みを浮かべた。
「まぁ、わからんではないからな。俺も…」
ヒイロは再びリリーナに向けていた目を夜空に戻した。
「俺も、昔は時々こうやって月を眺めていたことがある」
ガンダムのモニター越しに、潜伏中の森林の中で、サンクキングダムの庭園で…。
こんな月夜の晩は、ヒイロは月を見上げた。
「今は、どうですか?」
「今は…、時によるかな。月夜を気にするヒマなど与えてくれない奴がいるからな」
苦笑しながらヒイロは答える。
「それ、遠まわしに嫌味ですか…」
「かもな」
「ひどいですわ、ヒイロ」
「冗談だ」
プーゥと頬を膨らませるリリーナと苦笑するヒイロ。
リリーナはヒイロの横に近寄った。
「とても不思議。こんなに明るい月夜なのに、星も見えます」
「多分、1等星基準の明るさなら見えるだろうな」
実際問題、月光の中、見える星は1等星よりももっと明るい星なのだが、あいにくヒイロにはそんな専門知識を持ち合わせようという気はなかったらしい。
「コロニーも星のように輝いて見えるのかしら?」
「多分な」
「どれがどのコロニーか、解かりますか?」
「…………割り出すのは簡単だが、説明すると長くなるぞ」
ヒイロの口ぶりでは、観測はそこまで簡単に説明できる訳じゃない、と語っている。
「そうですわね……」
確かに、天文学に詳しくないリリーナも星の位置を割り出すということが大変手間のかかることぐらいはわかる。
まして、それが自分から輝くことのないコロニーと、自転している地球からであれば、余計に難しい。
「……大まかな方向ならわかるが…」
ヒイロはそう呟くと、月よりも少し東よりを指差した。
「今この時間帯ならば、あの方向にL1コロニー郡がある。月をはさんで、その反対側にL2が…、L3、L4、L5は地球からは見ることはできない」
月の光で、月のまわりにある星はほとんど見ることが出来ない。
それでも、その方向にコロニーがあるのだろう。





その時、月の側からキラリと何かが走った。
「……?」
一瞬のことに、リリーナはそれが何なのか解からなかった。
そして、それはもう一回……。
「…こんな夜でも、流れ星って見えるのですね!」
偶然の発見に、リリーナの瞳が輝く。
まるで、幼い子供のような瞳。
それも含めて、今の彼女は普段の大人びた少女の姿ではなく、年相応の少女の姿だった。
「…大気圏近くに漂っていたモビルスーツか何かの残骸が落ちただけだろう…」
ヒイロはそっけない。
「もう、ヒイロはロマンというものがないのですね」
また、リリーナの頬が膨れる。
「…ロマン?」
「そうですわ。男の方って『これが男のロマンだ!』とか言っているのじゃありませんの?」
「…………」
一体どこで、そんな知識を仕入れてきた?
思わずヒイロは頭を抱えたくなった。
「リリーナ、それは誰に聞いた?」
「デュオ君が警備の合間に、色々とよくお話してくれますの」
「何を?」
「『男のロマン』というものです」
またあいつか……。
あの三つ編み小僧は毎回事あるごとに『雑学』と称して、リリーナに色々と吹き込んでいく。
「ヒイロは、違いますの?」
「…………」
頭を抱えたくなるような問いかけ。
頭痛がするのは気のせいか?
「リリーナ」
仕方がないとでもいうようなため息をひとつ、ヒイロはリリーナの瞳を覗きこんだ。
「デュオはデュオ、俺は俺、だ。アイツのたわごとを鵜呑みにして当て嵌めるな」
ヒイロの物言いに何か感ずるものがあったのだろうか、リリーナは何も言わずコクリと頷いた。
今度デュオに会ったら「リリーナに余計なことを吹き込むな」と、きっちりと釘をさしておこう。
もちろん、釘をさす方法を厭うつもりはない。
また、その場に沈黙が流れる。
2人は何も言わず、ただ夜空を眺めていた。
リリーナはさきほどから流星を探している。
「ヒイロは、流星になって地球に下りてきてくれたのですよね…」
どのくらいの時間が流れたのだろう。
実際は数分なのだろうが、とても長く感じられた。
ポツリとリリーナの口からそんな言葉がこぼれた。
「わたくし、シャトルの窓から見たの。あなたとウイングガンダムを…」
もちろん、その時にはそれがヒイロなのだという認識はこれっぽっちもなかった。
ただ、すぐ横にいたドーリアン外務次官の「オペレーション・メテオか…」という言葉を今でもしっかりと覚えている。
「そして、海岸であなたと出会った。わたくしね、ヒイロのこと『星の王子様』って思ったのよ」
クスリと微笑む。
ヒイロは怪訝そうな顔で彼女を見つめた。
「わたくしの…わたくしだけの『星の王子様』…。その頃から、いいえ、最初からわたくしはヒイロに惹かれていましたわ」
にっこりと笑いながらも、リリーナはヒイロを見つめ返した。
「…………」
どう返せばいいのかヒイロには解からなかった。
一応知識では『星の王子様』というものが何なのかは知っていたが、リリーナの言わんとしていることの意味は計り知れなかった。
「ヒイロは、わたくしの『星の王子様』なのです。とっても繊細で、とっても優しくて、……とても寂しがりやさんで」
リリーナは両の手でヒイロの右手をとった。
「わたくしをこの暖かい手で守ってくださいます。わたくしをこの優しい手で抱きしめてくださいます」
ヒイロは何も言えなかった。
自分のこの血で染まった罪深き手を、彼女は、暖かい優しい手だと言う。
解からない。
ヒイロには解からなかった。
「わたくしは、あなたにしてあげられる事はひとつもないのかもしれません。でも、わたくしはわたくしの『星の王子様』の側に居たい…」
やわらかく微笑む真摯な瞳。
その瞳に引きこまれるかのように、ヒイロは彼女を抱き寄せた。
リリーナも抗うことなくヒイロの腕のなかでじっとしている。
自分の腕の中にいるこの不思議な存在を、ヒイロは抱きしめる事しか思いつかなかった。





「リリーナ、おまえが……、おまえが、俺を、…ここへ導いてくれたんだ」
途切れ、途切れにヒイロがつむいだ言葉に、リリーナは目を細めた。
「俺に、この世界を教えてくれたのはリリーナだ……」
その言葉だけで、リリーナにはヒイロの心が伝わっていた。
リリーナはそっとヒイロの背に腕をまわした。
俺がおまえの『星の王子様』なら、おまえは俺の『地球の姫』だ。
「だから、……俺の前から」
望む事はただそれだけ。



「居なくならないでくれ…」

俺の生きる世界はおまえと共にあるのだから。










わたくしだけの『星の王子様』のために、わたくしは喜んで道を示しましょう。

幸せの道を。

喜びの道を。

共に分かち合える道を。

共に生きる道を。

愛するあなたのために。






---------------------------------------------------

小森は、天文学に精通しているわけではないので、地学の授業のときに聞きかじった知識だけでこれを書いてました……(←オイ)
PR
Comments
Post a Comment
Name :
Title :
E-mail :
URL :
Comments :
Pass :   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
TrackBack URL
TrackBacks
ブログ内検索
最新コメント
アクセス解析
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
忍者ブログ [PR]