忍者ブログ
Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by - 2025.08.20,Wed
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed
 

あいつをエスコートするのは嫌じゃない。

ただ、他の男にあいつの姿を見られるのが嫌なだけだ。

いくら、仕事とはいえ、他の男とおまえが話すのを見るのは我慢できない。

できるなら、おまえの存在を俺一人のものにしてしまいたい。







いつも、あなたを見ている女性が多いの、知ってるかしら。

遠目から見ても、いつでもあなたはとても素敵だもの。

だから、少しやきもち妬いちゃう。

わたくしは、ずっとあなたを独り占めしたいのに。











たまに呼ばれるダンスパーティーは二人にとって憂鬱なものでしかない。
社交辞令や、下心ある挨拶の飛び交う、その世界はとても退屈極まりない。
常に浮かべていなければいけない、たぬき笑顔。
したくもないのに、ダンスの相手をさせられる。



これでは警備員としてここにいるほうがましだとも思える。
じろじろと見られるのは、いくら慣れていてもいい気はしない。



すべてがお開きになると、後には極度の疲れが残る。
実際はそんなに苦労することでもないのだが…。
精神的に負担が多い。
いつも二人、家に帰り着くとほっと安心してしまう。
いつからだろう、こんなに思うようになったのは。



今夜も二人がドーリアン邸宅に帰り着いたのは夜中の1時過ぎだった。
幸い、二人とも明日は仕事がない。
たまった疲れを存分に癒すことができる。
リリーナの仕事がしばらくの間、地球で行われることになったということで、彼女とその専属護衛官であるヒイロはJAP地区にある彼女の実家で生活する事になったのだ。
もともと良家の多いこの地区、ドーリアン外務次官が戻ってきたということで、夜な夜な晩餐会やダンスパーティーをどこかの家庭が開き、彼女とその護衛官を招待したがった。
しかし、彼女には時間的にも体力的にも余裕はない。
仕方がないので、以前世話になった人の誘いや、どうしても今後のことも考えると断る事のできない人物からの申し入れ以外はできるだけ丁重に断るようにしている。
しばらくたって、周りのものも彼女の立場と状況をある程度理解すると、それも下火になっては来ていた。
でも中には強引な者もある。
今日のダンスパーティーもそんなひとつだった。
疲れきった二人は屋敷の中に入ると、やっと開放されたとばかりに大きなため息をついた。
「お疲れ様でした、ヒイロ」
「ああ」
ヒイロの手から、自分のバックを受け取る。
「明日はお休みですから、しっかり休んでくださいね」
やっと、本心で笑うことができる。
「おまえも、しっかり休め…」
「はい」
その時、二人の帰宅に気がついたのか、パーガンが彼の自室から出てきた。
「ただいま、パーガン」
「お帰りなさいまし、お嬢様、ヒイロ様」
この穏やかな執事はどんなに遅く帰ってきても、二人を出迎えにおきてきた。
「ありがとう、パーガン。あなたも早くお休みになって」
こんな遅くまでご苦労様とリリーナは彼を部屋に引き取らせた。
今日のダンスパーティーは、どうやらリリーナを自分たちの子息に引き合わせたい目的のものだったらしく、彼女は主催者の息子と名乗るものとずっとダンスの相手をさせられていた。
「今日はヒイロと一度も踊れませんでしたわ…」
少しすねたようにリリーナは自室につづく階段をあがる。
「仕方がないだろう」
リリーナという相手を取り上げられていたヒイロも、別の意味合いも含め、実のところ不機嫌だった。
「これなら、お断りしていてもよかった…」
リリーナは少し後悔していた。
「済んだことだ、気にするな」
もうこれ以上終わったことを掘り返すのも、しゃくに障る。
「…そうですわ」
突然、リリーナは階段を上っている足を止めた。
「どうした?」
何かを思いついたリリーナはヒイロの腕をとった。
「今からでも、遅くありませんわ」
再び一階に戻り始める。
「リリーナ?」
ヒイロには彼女の行動がわからなかった。
リリーナは、以前ホールとして使っていた部屋にヒイロを連れていった。
このホールは窓が大きく、月の明かりが部屋に満ちていた。
「何のつもりだ」
ホールに入ったリリーナは、月明かりの差し込む窓辺にくる。
一度、ヒイロの腕を放し、少し改まってヒイロと向き合う。
「ヒイロ。わたくしと、踊っていただけますか?ちょうどお互いにダンスをするにふさわしい格好ですし」
ふわふわした白いドレスのスカートを少しつまみ、リリーナはお辞儀をする。
「疲れているんじゃないのか?」
「あなたと踊れるのでしたら、こんな疲れなんてたいしたことではありませんわ」
にっこり笑うリリーナに、ヒイロは小さくため息をひとつつくと、うやうやしく礼をひとつ、リリーナの手を取った。
「…よろしければ」
「よろこんで」






無言のまま、二人は月明かりのホールの中でステップを踏み出す。
音楽も何もない、殺風景な中でも、二人にはそれで十分だった。
この世で一番大切な人が、自分のそばにいてくれる。
それだけで二人は幸せだった。
「時が過ぎるのはとても早いのね…」
リリーナは昔、初めて彼とワルツを踊ったときのことを思い出していた。
「覚えていますか?あの時はわたしたちの目線はほとんど一緒でしたのに」
少しリリーナはヒイロを見上げる。
「今では、あなたの目を見るのに、わたくしはあなたを見上げなければなりませんもの」
「そうだな…」
あの時ならヒイロもよく覚えている。
その時点では、今こうやって自分とリリーナが再びワルツを踊っているなどと想像できなかっただろう。





やっぱり、わたくしはこの人を独り占めしたい…。



おまえのすべてを、俺のものにしたい。





一通り、踊り終わるとちょうど二人は窓際にいた。
月明かりがリリーナの白い肌とドレスを際立たせて、いつもより神秘的に見える。
「ありがとう、ヒイロ。わたくしのわがままに付き合ってくれて…。」
ほんの少しの時間でも、こうしてヒイロと踊れたことにリリーナは満足していた。
「もう休みましょう。あなたも疲れているのでしょう」
無言のヒイロの顔をのぞきこむように、リリーナは笑った。
ヒイロは、自分の手から離れたリリーナの手をもう一度とった。
「ヒイロ?」
そのまま、ヒイロはリリーナを引き寄せ、抱きしめた。
「…ヒイロ?」
突然のことに、リリーナの頭は真っ白になる。
彼に抱きしめられることは今までに何度もあったことなのに……。
自分を抱きしめる力が強くなる。
「…どうしたの?」
リリーナはヒイロの背に手を回した。
ヒイロは何も言わなかった。
ただ、リリーナを強く、強く、それでも割れ物を扱うように優しく抱きしめるだけだった。
少し苦しくて、少しくすぐったい。
リリーナは、ヒイロの腕の中で少し身体を動かした。
ヒイロの腕の力が弱まる。
「…悪かった」
そのまま彼女を離した。
「どうして?」
リリーナは首をかしげる。
ヒイロに謝られるようなことはされていない。
リリーナはヒイロに手を伸ばしてこう言った。
「もう一度、抱きしめてくださいます?」
ヒイロの目に一瞬だが躊躇の色が伺えた。
「ね?」
リリーナは少し上目遣いにヒイロの目を見た。
「……もう、できない」
「さっきはしてくれましたのに?」
「それは…」
ヒイロはリリーナをじっと見つめた。
本当は、抱きしめたくて、すべてを自分のものにしたくてたまらなかった。
でも、そうすることで大事なものを壊してしまうような、そんな気がして、触れるのにためらいを感じる。
「…もう一度、おまえを抱きしめたら、…離せなくなる」
きっと本心のつぶやき。
ヒイロの彼女に対する望み。
それが、むしょうに嬉しくて、リリーナは自分からヒイロの腕の中に飛び込んだ。
「…嬉しいです」
「…いいのか?」
「ええ、ずっと離さないでください…」
ヒイロの望みをかなえることができるのなら、わたくしは幸せ。
そして、わたくしもあなたを離したくない。
何も言わなくても、お互いの伝えたいことは伝わってしまう。そんな気がする。
月明かりの下、二人は見詰め合うとゆっくりと、軽く、深く、何度も口付けを交わした。





今こうしているだけでも、わたくしは幸せ。
できることなら、ずっとこうしていたい…。



俺は今、幸せというものなんだろう。
許されることなら、このままずっと、永遠に時が止まればいいのに…。





「もう一度、踊ってくれますか?」
しばらくたったあと、リリーナはヒイロの腕の中でお願いした。
「わたくし、蓄音機がある場所を知っていますの。今度は音楽をつけて踊ってください」
「別に、音楽が無くとも…」
「だめ、雰囲気がでないでしょう?」
リリーナはヒイロからすばやく離れると、ホールの奥にある大きな棚に近づいた。
その扉を開くと、中に古めかしい数世紀も前の蓄音機が入っていた。
「かなり年代ものですが、ちゃんと音は出るんですのよ」
慣れた手つきで、リリーナは蓄音機の盤の上にワルツのLPをセットする。
「あまり大きな音が出ないので、あまり周りにもご迷惑かからないと思います」
少したつと、ラッパのようなスピーカー代わりのものから、ワルツが流れてくる。
「これで最後にしますわ。お願い、ヒイロ」
ヒイロは仕方ないとでもいうようにため息をつくと、再びリリーナの手を取った。







パーガンはかすかに聞こえるワルツの音楽に目を覚ました。
こんな時間になぜワルツが聞こえるのだろうか。
リリーナが帰ってきてからまだ小一時間しか経っていない。
何事だろうかと、ワルツの正体を見極めるために、寝台から起きだし、部屋を出た。
ワルツは、ホールから聞こえてくる。
パーガンは、ホールの入り口に近づいた。
少し扉が開いている。
そこから中をのぞいてみる。
そして、中の光景に思わずため息をついた。
流れる音楽のなかで踊るリリーナとヒイロの姿に見とれてしまう。
月の光が二人を照らし、まるで幻想の世界を見ているようだとパーガンは思った。
そして、これ以上に『恋人』と言う言葉がふさわしい二人がいるだろうか?と思った。



「ヒイロ」
「何だ…」
「一生わたくしを離さないでくださいね。わたくしはずっとヒイロの側にいますから」
「ああ、心配するな…頼まれても、永遠におまえを離しはしない」



踊りながら交わす約束。
パーガンは自分も幸せになったような気がして、その場を離れた。
ヒイロなら、自分の大事なお嬢様を必ず幸せにしてくれる。
そう確信して。


---------------------------------------------------

お話は強引です。
PR
Comments
Post a Comment
Name :
Title :
E-mail :
URL :
Comments :
Pass :   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
TrackBack URL
TrackBacks
ブログ内検索
最新コメント
アクセス解析
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
忍者ブログ [PR]