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Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by - 2025.09.10,Wed
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Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed
 



サンクキングダムの夜は、静か過ぎるほど静かだった。

月も今日は新月、星の光だけが地上を照らしている。





その光も届かない、そんな場所にヒイロはいた。





サンクキングダム城の地下格納庫。

昔はここにガンダムを隠したこともあった。





今は、それも、もう無い。





その後には、空っぽの空間だけが残されていた。

共に格納されていた機体も、すべて廃棄処分されているはずだ。

だが、この場所にくると自然に足がここへ向かってしまう。

何度、ここへ来たのだろうか。

この場所にもう用は無いというのに。





「ヒイロ?ここにいらっしゃるのかしら?」





リリーナの声ががらんとした格納庫跡に響いた。





「ああ、ここだ」





その声に振り向きもせず、ヒイロは答えた。





リリーナが自分に近づいて来ているのを、気配で感じ取る。

彼女の気配はいつでも穏やかで優しい。





「どこに行ったのかと思いましたわ。こんな所にいたのですね」





リリーナの手には古めかしいランプが握られ、その腕には毛布が抱えられていた。





「どうした、何かあったのか?」





今日、明日と世界は夜空に流星群を探すだろう。

2人も、世紀に数回しかない、この天体ショーをこの地で見ることにしたのだ。





「外は絶好の流星群日和ですわ。もうそろそろ見に出てもいいのではないかと思いまして」





にっこり笑った彼女は愛らしかった。

時間はもう夜中の1:00。

もうそんな時間かと、ヒイロは思いながらリリーナの持っていた毛布を手に取る。





「そうだな、外に出るか…」





緊急用として格納庫のはずれに設置されていたエレベーターに向かって二人は歩き始めた。

手っ取り早く外に出るには丁度いいからだ。

稼動用の電力もカットされてはいないだろう。





2人を乗せてエレベーターは地上まで一気に上ってゆく。

そのまま、城の外庭にある小さな小屋の中にエレベーターはその扉を開いた。





「こんな所につながっていたなんて…」

「城の中だと気付かれる恐れがあったからな」

「誰に?」

「リリーナに」





確かに、あの頃の彼女なら、気がついたら即座に撤去を求めたかもしれない。

『もしもの場合に、この国を守るための保険』と、ノインをはじめ、この国の近衛兵たちは彼女にその存在を知らせなかったのだ。



「…確かに驚きました。でも、あなたがいてくれたから、わたくしは過ちを犯す前に決断を下すことが出来ました…」



あの時、もしもヒイロ達が戦ってくれなければ……。

あの時、ノインが防御の準備をしていなければ……。





きっと、もっと多くの血が、この地に流れただろう。











2人は何もない芝生の上で、毛布を身にまとい腰を下ろした。

城の電灯類はすべて消してある。

手にしていたランプの明かりを消すと、暗闇と無数の星が2人の周りを取り囲んでいた。





「ここから見えるかしら…」





心配そうに空を見上げる。

心配は要らなかった。





「あ……」





一瞬だったが、2人の頭上を一筋の光が線を引く。

そして、次々に続く流星。





「あなたも、流星として地球に降りたのでしたわね…」





遠い昔のこと。

2人の出会いはそこから始まった。





「シャトルから見えた流星…。『オペレーション・メテオ』…」





リリーナは呟く。

あの時は、その後で起こる、荒々しい時代の流れなど予想もしなかった。





そうして、わたくしはここに居る。





「昔のことだ…」

「昔…といっても数年前ですわ」





もっと昔のことのように感じられる。

夜空を流れる流星郡は、目を離すのも、もったいないくらいに美しかった。





ふいにリリーナの口から、小さく静かなメロディがこぼれた。



「……」



それまで夜空を見上げていたヒイロの視線がリリーナに向く。



「それは?」

「この国に伝わる古い歌ですわ。昔、お義母様に教えてもらったものでしたが、この国の歌だったとは思いませんでした」

「なんという歌だ?」

「『星の船』だそうですわ」





緩やかな旋律。

優しいリリーナの歌声。

それは、ヒイロの耳を魅了してやまなかった。

いつしか、空の流星も下火になってきたようだ。

防寒用にと身にまとっている毛布の上からも寒さが忍び寄る。





歌いながらも、リリーナは少し身震いをした。





ヒイロの腕が彼女を抱き寄せた。





「暖かい…」





伝わってくる温もり。

伝わってくる自分を気遣う優しさ。





自分はなんてすばらしい出会いをしたのかしら…。





リリーナは流星に感謝した。

形は違えど、流星により2人は出会ったのだ。





「ねえ、ヒイロ。あなたは流れ星にお願いをしましたの?」





流れ星に三回、自分の願いを願えば、その願いは叶う。

誰が言い出したことなのだろう?





「非現実的なことはしないが…」

「もうっ、夢が無いですわね」

「必要は無かろう」





いつだってヒイロはこういう人だ。

現実的で、けしてロマンチストでは無い。





「わたくしはしましたわ。さすがに三回も一つの流れ星にお願いすることは出来ませんでしたが…」





少しすねるようにリリーナは頬を膨らませた。



流れ落ちる流星に、三度も繰り返すことは無理だったので、一度だけ、強く願いをこめてリリーナは願った。





「どうか、ずっとヒイロと一緒にいることが出来ますようにって」

「おまえ、言って恥ずかしくないか…」

「す、少し恥ずかしいですけど…」



でも、ヒイロと一緒にいたいのです。



そう、彼女の目は訴えていた。

そのしぐさが愛らしくて…。





ヒイロはそっとリリーナの耳元でささやいた。





「“叶う願い”は願わなくてもいい…」





リリーナは自分の体温が一気に上昇するのを感じていた。

頬が高潮するのが分かる。



「…では、他のお願いを願うことにしましょう」



ようやく、それだけを口にすることが出来た。

ヒイロの言葉の意味を自分なりに解釈しながら。











それからしばらくの間、そのまま2人は無言でずっと空を見上げていた。



「…リリーナ、さっきの歌をもう一度歌ってくれないか…」



沈黙の後の一言。



リリーナは微笑を浮かべ何も言わずに頷くと、もう一度静かな声で歌い始めた。

緩やかに響く、流れるようなメロディ。

優しく、澄んだその声は、ヒイロの心をいつしか眠りにと誘っていたようだ。

気がついたリリーナは、しばらくの間、彼だけにその歌を歌い続けた。





心やさしき愛し人に贈るささやかな子守唄として…。


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TVシリーズの方はうろ覚えだったので、いまいち2人の証言や文中の表現におかしいところがあるやもしれませんが、気にしないでください。
気にしちゃ負けよ。(←オイ)
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