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Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by - 2025.08.20,Wed
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Posted by ino(いの) - 2008.08.04,Mon
 


自称『エスタの明るい大統領』であり、スコールの父親でもあるラグナ・レウァールがはた迷惑ともいえる依頼をもってきた。

おかげで、バラムガーデンはちょっとした大騒ぎ……いや、ちょっとしたお祭り騒ぎになっている。



最初の予想よりも、倍以上の量だった衣装の数々と機材の山。
そして、飛び交うカメラのシャッターを切る音とフラッシュの光、そしてため息。
(今日、一体何回着替えたんだろう…)
もう、回数なんて覚えていない。
自分が、どんな衣装を身につけていたのかでさえうつろな記憶だ。
スコールは、本日通算百十数回目のため息を何気なくついた。
「スコール、楽しくないの?」
すぐ横で自分と共に、出番を待っているリノアが小声で聞きながら、見上げた。
「楽しいとは、言いがたいな」
露骨に嫌だということを口にすると、リノアはきっといい思いをしないだろう。
百歩譲って、そこまでしか口にしなかった。



よく見れば他のメンバーはそれなりに、めったに味わえないこの任務を楽しんでいるようだ。
あのゼルでさえ、真っ赤になりながらもしっかりと図書室のみつ編みちゃんをエスコートしている。
アーヴァインやセルフィ、キスティスはしっかりとはしゃいでいるようにしか見えない。
(あいつらは、結婚式本番だと言われてもあの調子だろうな……)
スコールはため息をつきながら、そう思ってしまった。
多分、それは自分の横でその黒の瞳をキラキラさせている女の子もきっとそうだろう。
早々、スコールはマリッジブルーにも似たようなものを体験しているような気分になっている。
何度も何度も着替えさせられて、なおかつ「お色直しだ~」などとはしゃいでいられる皆が、少しうらやましくも思えた。


今日何度目のため息か…、数えるのをやめたのは数時間前。
「今日のスコール、本当にため息ばっかりだね。一分間に平均10回だよ」
リノアが、近くの壁にかけられていた時計を見ながら、笑った。
なんだかんだといって、しっかりと統計までとっているあたり、しっかりと観察されていたらしい。
「「……悪かったな」」
リノアの声と、スコールの声が見事にユニゾンする。
「いっつもそれだね、スコール。誰も悪いなんていってないのに」
リノアはくすくすと笑っている。
「こういうことは好きじゃない」
仏頂面でスコールはボソッと言い返した。
「そうだね、スコール目立つの好きじゃないもんね。……でもなんだかんだいって目立ってるんだよね」
フォローになってるんだか、なってないんだか…。
またため息をつくと、スコールはそばにあったベンチに腰掛けた。
今は一階ロビーの階段でアーヴァインとセルフィのコンビがポーズを取っている。
ゼルやみつ編みちゃん、キスティスとニーダはその場の撮影を終え、次の場所用にと『お色直し』に行ってしまった。
次は、スコールとリノアの番だろう。
周りの視線が、痛いほどよく分かる。
自分に向けられているものでもあるし、もちろん自分の恋人である女の子に向けられたものでもある。
それは憧れと、羨望と。
そして、嫉妬と……。
今日、非番や休暇であるSeeDたちを含めた男性陣はいつもよりも綺麗なリノアに目を奪われ、その横にいるスコールに敵意の眼差しを送りつける。
(やめろ、うざったい)
スコールは、独占欲丸出しにそう意味をこめ、周りのギャラリーをにらんだ。
そのにらみを勘違いして、クラクラと来た女生徒が大勢居たのはまったくの余談であろう。



「はんちょ~、何恐い顔しとんのや。せっかくのタキシード姿も形無しやで~」
写真を撮り終えたセルフィとアーヴァインが、ものすごい形相のスコールを見つけ、笑い出す。
「だよね~、さっきからずっとこうなの。スコール、ものすごくカッコいいんだから少しくらい笑ってくれてもいいよねぇ」
リノアが頬を膨らませている。
向こうで、なぜか黄色いメガホンを持ったラグナがスコールたちを呼んでいるのが聞こえた。
「ほらほら、これ撮り終わったら、次の服で一通り終わりだって言ってたよ。スコールも仏頂面してないでさ」
アーヴァインに背中を押されて、しぶしぶスコールは立ち上がった。
またシャッターを切る音とフラッシュの光が飛び交う。
「スコール、私たちの番だよ。行こう!」
リノアの声にスコールは今まで以上に大きなため息をつくと、歩き始めた。



本日最後の撮影場所は、中庭の噴水前だった。
もう空は夜の色に染まっている。
「星降る夜空ときらめく噴水をバックに、ってロマンティックだろ~!」
「あんたにロマンティックなんて言葉は似合わない」
「すぐこれだもんな~、パパは悲しいよ…」
「誰が『パパ』だ、誰が」
「俺~」
ニコニコと、ラグナは自分を指差す。
いいかげん、我慢も限界に近い。
ライオンハートを自分の部屋においてきたのは失敗だったな。
そう思ってしまう。
「そう言うなよ、いとしの息子!ようやく親子そろったんだからよーもう少しスキンヘッドしようぜ~」
「もうそんな歳じゃない。それにスキンヘッドじゃない、スキンシップだろ」
「わーってるよ!もう、このハイセンスなシャレがわからんとは…」
分かりたくもない…。
思わずスコールは額を抑えた。
「さっさと終わらせるぞ、…親父」
なにやら『親父』に力がこもっている。
しかし、そんなことが今のラグナには通じない。
息子に『親父』と呼ばれたことに、急に有頂天になってしまった。
「よっしゃ~、じゃあ、ラスト行ってみよっか~」
さっきよりもテンションのあがったラグナを横目に、言うんじゃなかった…とスコールは少しだけ後悔した。


そして、皆がそれそれに最後の写真を撮り終え、最後のスコールとリノアの番が回ってくる。
「笑えよ、スコール」
誰ともなく、そんな声があがる。
誰が笑えるか、こんなところで…。
あくまで表面はポーカーフェイス、しかし内面ではかなり毒づいていた。
「スコール、命令だ~。笑え~」
さっきからラグナが黄色いメガホンをもってカメラの横で叫んでいる。
誰が笑うか…。
そう思って何気にガーデン内部につながるエントランスに目を向けたとき、その最上に立っている人物に目が止まった。
そこには、にこやかでいて、それでも有無を言わせない表情のシドがいた。
あの人に逆らうと、なにが起こるかわからない……。
そう考え直し、スコールはしぶしぶ呟いた。
「……了解した」


ラグナがカメラのファインダーを覗いている。
多分その中にはよりそって、たっている自分たちが移っているはずだ。
不本意だが、仕方がない…。
そう思い、スコールはカメラに向かって笑って見せた。
それはきっと、無意識の中で、自分の父親へ向けた素直な思い……かもしれない。


「スコール、カッコよかったよ~」
夜遅く、短いようで長い任務を終え、それぞれ自分たちの部屋に戻ろうと一階フロアを歩いていたスコールに、リノアが話し掛けた。
「やめろ、思い出すだけで恥ずかしい……」
その声が、照れ隠しなのが聞いていてよく分かる。
「でも、楽しかったね。何か結婚式の予行練習みたいでさぁ」
リノアはスコールを見上げた。
「…とんだ予行練習だな」
「そうだね」
クスリとリノアは笑った。
その表情がスコールにはかわいく見える。
「……いつか…」
そこまで言いかけて、リノアは口をつぐんだ。
「いつか?」
スコールは首をかしげて聞き返す。
リノアは、ためらいがちに再び口を開いた。
「…いつか、本当の式、挙げたいね」
少し恥ずかしそうに、うつむき加減にリノアはそう言った。
自分で言った言葉に照れている彼女がとても愛しかった。
スコールは少しだけ微笑むと、リノアのその手をとる。
「ああ、待っていろ」
どういえば、自分の思いを伝えられるかはよく分からない。
でも、つないだ手がそれを十分に伝えてくれた。

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やっぱり何か違う方向に……。(汗)
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