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Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by - 2025.08.24,Sun
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Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed
幸せは、意外と近くにあるものだ。



(1) 五飛と妹蘭の思い出



青い空を見上げて、その日差しに目を細める。
その日差しに「う~ん」と小さく伸びをすると、縮こまっていた背中に気持ちのいい痛み。
「いい天気……」
ほっと一息つくと、歩き出す。
「こんないい天気に、散歩しない手はないよね」
ほのかにそよぐ風が、足元の花をゆらゆらと緩やかに揺らす。
このコロニーで、唯一、穏やかな気持ちになれる場所。

ナタクではない自分で、竜一族の、ただの妹蘭でいられる場所。




そよぐ風に目を閉じると、いろんな音が、耳に入ってくる。
さわさわと、草の葉のこすれる音。
遠くにみえる道場からの、稽古の掛け声。
はるか天井に見える老朽化したコロニーの支柱が風で鳴る鋭い音。

そして、背後からのわずかな足音。




「何か用か、五飛?」
「よく、俺だとわかったな」
「お前の気配は、他の連中とは違うからな」
「ほう。そうか」
振り返れば、そこには先日自分の夫となった男。
「で、私になにか用か?」
「いや、少し気になることがあってな」
五飛は、そう言うとその場に座った。
手に持っていた小さな木の箱。
「座れ」
箱を横に置くと、自分の正面を指差す。
「なぜ?」
「いいから座れ」
五飛を見下ろしにらむ妹蘭を、見上げる五飛は有無を言わせない。
「…………わかった」
妹蘭も、今はこれ以上意地を張る気にもなれなかった。
素直に五飛の示した場所に座ることにする。
それを確認すると、五飛は横に置いた箱を開き、中身を探る。
「腕を出せ」
箱から取り出したのは、湿布薬。
「右だ、袖をまくっておけ」
言われるとおりに、妹蘭は右腕を前に出す。
「……なぜわかった……」
「いつもと動きが違った。組み手のとき、右をかばうような動きをしていたからな」
差し出された腕の、手首とひじのちょうど中間ほどの位置を見て、眉をしかめた。
「まったく、派手にやったな」
赤黒くその場所はおおきなあざになっていた。
湿布をその位置に当て、大きさを測ると、一緒に箱に入っていた小さな医療鋏で手ごろな大きさにカットする。
「内出血するほどの打ち身を、なぜ放っておく?」
「……別に……放っておいたんじゃない」
あざを調べる五飛の指に、妹蘭は顔をしかめる。
「……昨日、稽古の途中で、痛めて……。手当てするほどでもないと、思って……」
「で、今日になってみるとこれか」
「いっ、……五飛、痛いぞ!」
あざを押された痛みに、腕を引こうするが、しっかり右腕は押さえ込まれている。
「これくらい我慢しろ」
「………………」
湿布を張りながら、諭すような口調の五飛に、痛みをこらえわずかに涙目の妹蘭。
いつもと違って、自分の言動に突っかかってこない彼女に、五飛は内心驚いていた。
湿布特有の冷たさと、つんとくる独特のニオイ。
包帯で、しっかり固定すると、五飛はようやく妹蘭の手を離した。
「内出血が消えるまで、しばらくは痛い。稽古は控えておけ、老師には俺から言っておく」
「……うん、そうする」
妹蘭は素直に頷いた。
不思議と、普段彼に感じている苛立ちや敵対心のような感情は沸いてこなかった。
それを不思議と思いながら、妹蘭は今、五飛が巻いてくれた腕の包帯を見た。
「用はこれだけだ」
手早く、使った道具を箱にしまいこむと、五飛は立ち上がった。
「邪魔したな」
そう短く一言、くるりと踵を変え竜邸の方角へ。
「あ、五飛っ」
そういえば、まだ礼を言っていない事を思い出し、妹蘭はあわてて五飛を呼び止めた。
「なんだ?」
歩む足を止め、五飛はこちらを振り向く。
「あ、あの、謝謝。手当て、してくれて……」
普段言い馴れない感謝の言葉に、口ごもりながらも感謝の意を口にする。
妹蘭に感謝されたことに、五飛は驚いたようだ。
少しだけ、五飛の表情が動いた。
「……ああ、とりあえずは、夫婦だからな。それぐらいのことはして当然だろう」
ポツリと返された返答。
「こ、今度、五飛が怪我したら、私が手当てするからな!」
真っ赤になって、必死に何かを言葉にしたくて。

伝えたくて。

「ああ、そのときはナタクに頼むとしよう」
「でも、できるなら怪我は……して…欲しくない……けど…」
「わかった。善処しよう」
「うんっ」
ふわりと、妹蘭が浮かべた微笑。
ああ、彼女はこんな顔もできるのだ。
初めて、妹蘭が笑った顔を見た。
素直に、きれいな笑顔だと思った。

普段から、この笑顔を見せれば、もう少し可愛げもあるものを……。
頭の片隅で、そんなことを考える自分に五飛は苦笑する。
「?」
苦笑する五飛に、不思議そうに首をかしげる妹蘭。
「いや、お前もそういう風に笑えるのだな、と思っただけだ」
そして、こう続ける。
「お前は笑っているほうが似合うぞ」
「…………」
意外な五飛の言葉に驚いて、妹蘭は目を丸くした。
そうかえってくるとは思わなかったのだ。
「今日は、おかしな日だな。お前にそんなことをいう甲斐性があったとは思わなかった」
照れ隠しに、ひねくれてみる。
「フッ、俺もそう思う」
いつもの彼の笑み。
でも、どことなくやさしい。
「じゃぁな」と、五飛はまた歩き出した。
あとに残るは、その後姿を見送る妹蘭と、やわらかな風。
「本当に、おかしな日だ……」
右腕の包帯に手を触れ、さっきの五飛を思い出す。
「笑っているほうが似あう、か……」
なにかくすぐったい。
こんな気持ちは初めてだ。
「お前も、笑っているほうがいいと、私は思うぞ。五飛」
風に乗せた妹蘭の言葉は、五飛に届いたのだろうか?


きっと、また、明日になれば、いや、ここから離れれば、いつもの二人に戻るだろう。
だが、もっと笑ってみよう。
自分が笑うことで、あいつも笑ってくれるのなら。





幸せは、意外と近くにあるものだ。




The Following Happiness is followed →


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五飛と妹蘭のお話 in L5コロニー郡 でした~。

小森的妹蘭のイメージって、「SEED」のカガリっぽい。(笑)
気の強い、少年のようで、でも女の子。
自分としては、五飛は妹蘭派なので、五飛×サリィ姐さん派の人には石投げられそうですが。(^^;
ちなみに、余談ですが、小森の中でのサリィのイメージは『お母さん』もしくは『お姉さん』です。
小森の頭には、どうも五飛×サリィというのは思い浮かばなく、ネット上で、五飛×サリィのサイト様を見つけて「あ、こういうカップリングもあったんだ~」と目からうろこってな感じっす。
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