Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed
~酒は飲んでも飲まれるな~
年の瀬、年明けをまたいでプリベンター任務についていたヒイロが、一週間ぶりに本部に戻ってきた。
激務に疲れた身体を憂いながら自分専用のワークデスクに戻るところから事件は始まる。
そう、デスクの上のワークステーション画面に一枚のメモが貼り付けてあったのを見つけたのであった。
人質はあずかった。
その一言をメインに、あちこちに散らばって、いろんな字で書き込まれているそのメモは、やけに存在感がある。
『PM9:30までに来ない場合、人質の身の安全は保証しない』
これは明らかにトロワの字だ。
『車以外の交通手段で帰宅できるように手配はしてあります。君の車は本部に置いておきましょう』
この字と文面はカトル。
『今回は無視するのはナシな。でないとあとで後悔するぜ~』
この場合、文面だけでデュオだと判断できる。
『大丈夫、大丈夫。警戒しないで。別にとって食いやしないから、安心していらっしゃ~いvv』
ご丁寧に、語尾にハートマークまでつけたこの字は多分サリィ・ポゥだろう。
そして、隅っこのほうに小さく、流暢な毛筆文字。
『もはや、こうなったら誰にも止められん』
これは多分五飛だな…………。
何が止められないというのだろう?
あの五飛でさえ止めることのできないこととは一体何だ?
頭の片隅で、なにか嫌な予感がしないわけではなかったが、正体不明のこのメモ書き。
無視するとあとが怖そうだ。
とりあえず、任務明けで疲れてはいたのだが、ヒイロはメモに指定された場所へ向かうことにした。
そして、プリベンター本部から歩くこと十分。
ヒイロはこの場所へ来たことを後悔することになる。
「よぅ、ヒイロ!遅かったじゃねぇか~!!」
指定された場所はにぎやかな繁華街にある一軒の居酒屋。
辿り着いたそこで、店に入るなり真っ先に彼を出迎えたのはデュオ。
「時間はもう8:00過ぎてるぜ~。な~にやってたんら~?」
すでに、座敷は宴も酣(たけなわ)。
語尾がだんだんおかしくなってきているデュオは、すでに酒気を帯びている。
「あ~、ようやく来たわね~。さささ、ヒイロも上がって、上がって」
目の前はお座敷。
奥からきたサリィにヒイロは腕をとられ、靴を脱ぐのもままならぬ状態で、引っ張り上げられる。
いきなりのことに、ヒイロは唖然としてしまい、何も言えない。
パクパクと口を動かすが、言葉がでてこなかった。
「やっと来たか、遅かったじゃないか」
レディ・アンの手にはほぼ空になったビールのジョッキ。(しかも大)
「は~い、ヒイロ。ここは遠慮なく、ググッとイッキ飲みしましょう!!」
いつのまにか傍に来ていたカトルから、これまたビールジョッキ(やはり大)を押し付けられてしまった。
よく見れば、向こうにはいつのまにか戻ってきたサリィに絡まれたトロワや五飛の姿もある。
あのメモ書きは一体なんだったんだ?
人質とはなんだ?
9:30までに来たのだから、別にかまわないだろうが。
そもそも、用件は単に飲み会の呼び出しということなのか?!
そんなことが頭を駆け巡るその間、約10秒。
ようやく一言。
「用件は何だ……」
ピタッとその場の動きが止まることも、約10秒。
やはりこちらもかなりの量を飲酒済みであろう、顔を赤くしてニコニコ笑っているカトルが一言。
「や~だなぁ、ヒイロ~。この時期に飲み会って言えば~、やっぱし新年会ぢゃな~いで~すか~」
そう、この場所は『普段から皆様ご苦労様。プリベンター職員一同今年も張り切ってのりきっちゃいましょ~、では景気付けに新年会』(byカトル命名)会場だったのだ。
「だって、ヒイロってば、忘年会も任務明けで疲れてるんだ~ってすっぽかしたでしょ~ぉ。年に二度、レディさん公認のお祭り騒ぎを堪能しないでどうするんですか~?」
やはり、かなり酔っているのだろう。
説得力はあるが、微妙に論点がずれている。
何が年に二度のレディ公認お祭り騒ぎだ、お前とデュオは年中似たような名目で騒ぎをおこしているじゃないか……。
ヒイロはそう突っ込みたかったが、酔ったカトルには何を言っても通用しない。
「……………………」
思わずその場で頭を抱え込みたくなったりもしていた。
「ほらほら、せっかくのビールがぬるくなっちゃうぜ~。ググッといきましょ、いきましょ」
やんや、やんやとデュオが絡んできた。
しかし、ここでこいつらのペースに乗せられるわけにはいかない。
「悪いが、俺は……」
「帰るってのはナ~シ!」
すかさずデュオがヒイロの言葉をさえぎった。
「しかし……」
「ヒイロ~、僕たちとは飲めな~いっていうんれすか~……」
それも、すかさずカトルがさえぎる。
うるうるおめめ状態のカトルが、ギュッとヒイロのジョッキを持っていない手を握り締めた。
「たま~には~、僕たちの相手してくれてもいいじゃないですか~。いっつもリリーナさん、リリーナさん~、って帰っちゃうんだから~」
カトルもかなりの絡み上戸に突入したようだ。
「……………………」
ここはレディたちに助けてもらおうと、そちらのほうに視線をやると、そこにはジョッキ(やはり大)にナミナミと入ったビールを景気良くあおっているレディをはじめノイン、ミリアルドの元トレーズスペシャルズ三人組。
どうやら、あの方面に助けを求めるとさらに事態はひどくなりそうな予感がしてヒイロはあきらめた。
ならば……、とトロワや五飛のいる方向に視線を向けると……。
「キャハハハハハハ、ウーフェー上手~!!」
「いつもより多くまわしております~」
「……やはりこれは皿と箸とのラグランジュポイントにおけるバランスが程よく取れ、なおかつ回転によっておこる遠心力で重力が………」
にぎやかなサリィの声と、箸と皿で景気良く皿回しをしている五飛に、その横でなにやらぶつぶつと一人正しいのかそうでないのか分かりにくい解説をしているトロワの姿。
「…………………………………………(汗)」
どうやら、こちらも止めておいたほうがよさそうだ。
そして、ヒイロは五飛やトロワの向こうに見つけてしまった。
まさかとは思うが、見間違いはないだろう。
自分があの人を間違えるはずがない。
「……何故、ここにリリーナがいる」
それには、しっかりと自分の手を握り締めているカトルが答えた。
「な~ぜかって~?うふふふふふ~、そ~れ~はね~ぇ」
酔っ払いのテンション絶好調。
ニヤニヤと、普段のエンジェルスマイルはどこ吹く風、含み笑いでヒイロを見上げるカトルは、なかなか怖いものがある。
「なぜなら、リリーナさんも、一緒に新年会しましょ~って誘ったのは僕だからで~す!!」
エッヘンと胸をはり、得意満面。
「リリーナさん呼んだら、もれなくヒイロも付いてくるでしょ~!」
「ギャハハハハハ、ナイス、カトル!!確実にもれなく付いてくる、付いてくる!」
ヒイロの両側でけたたましい二人。
俺は車か何かのオプションか、景品か?
一瞬、そんなことが頭をよぎるが、酔っ払いに何を言ってもしょうがない。
そんなヒイロに気が付かず、さらにカトルは続けた。
「ついでに、リリーナさんがくると、ミリアルドさんの出席率もぐんとUPしますしね~」
「なんせ、リリーナお嬢様が何よりも大事なシスコンにーちゃんだもんなぁ~」
ミリアルドと同等にくくられたような気がして、微妙にムカつくんだが。
これも酔っ払いには何を言ってもしょうがないということで押えるべきか……。
「で、このメモに書いてある人質というのは何だ?」
できれば、要件はさっさと済ませてリリーナを連れ帰らなければ。
こんなところに、彼女を置いておくわけにはいかない。
それ以前に、酒気を帯びた彼女は、普段以上に無防備になる。
いくら、信用のおける奴らだとは言え、そんな彼女をこいつらの前にさらす気は毛頭ないヒイロだった。
「ああ、それ、ボクが考えて、トロワが書いたの。リリーナさん人質にとっておけば、ヒイロ必ずくるでしょ~?」
「まさか、トロワのヤツ、ホントに人質って書くとは思わなかったけどな~」
「でも、ちゃんと明記してなくてもヒイロは来たんだし、せ~こ~、成功~。次からもこの手で行きましょ~」
「同じ手に、二度も引っかかる俺じゃない」
「ンな事言っちゃってまたまたぁ~、人質がリリーナお嬢様なら、絶対どんな状況でもヒイロは来るぜ~」
「……………………」
あながちデュオの言葉は外れていないのが、またなんともいえない。
「まぁ、五飛さん、まるで中国雑技団の演目を見ているようですわ~」
タイミングがよろしいのか、そうでないのか、どんどん数が増えていく五飛の皿回し芸に、喝采を送るリリーナの声。
さらに良く見れば、その手に中身が半分ぐらい残っているグラスがある。
まぎれもなく、彼女も飲酒した後のようだ。
まさに、ヒイロにとって、非常に望ましくない状況。
ヒイロは、持っていたジョッキを今だ絡んでいるデュオに押し付け、カトルの手を振り解くと、つかつかとリリーナの元に歩み寄った。
「飲みすぎだ、リリーナ」
手短に、一言。
そして、ひょいとその手のグラスを取り上げる。
「あ、ヒイロ」
あまりにも突然にリリーナは目を丸くしている。
しかし、現れるなり、自分の楽しみを奪おうとするヒイロに、リリーナは頬を膨らませた。
「たったコップに3杯程度、飲みすぎではありませんわ~。それに私は皆さんと楽しく飲んでるんです。貴方にとやかく言われるいわれはありませ~ん」
リリーナの『3杯程度』という言葉に、ヒイロはすぐ横のサリィを見る。
サリィは、苦笑しながら肩をすくめた。
どうやら、それ以上飲んでいるらしい。
「何が3杯程度だ、確実に酔っ払っているくせに。帰るぞ、リリーナ」
「嫌~、もっと皆さんと飲みます~!」
まるで小さな子供のように、駄々をこねるリリーナ。
いつもの彼女からは想像もできないこの姿。
何も知らない者が、この姿を見たら、必ずクラクラと来てしまうような、そんな愛らしい仕草。
ヒイロは、思わずその場で頭を抱えたくなってしまった。
「それに、わたくし怒ってるんれすのよ~」
急に、両頬を膨らませ、リリーナはヒイロを見上げる。
ヒイロはヒイロで、そんなリリーナの様子に驚いていた。
どう見ても怒っているようには見えない。
どっちかというと、拗ねていると表現したほうがいいだろう。
とりあえず、本人が『怒っている』と言っているのだから、下手に口出しはしないほうが身のためだろう。
「なんれすか~、いつも、いつも、いつも、いつも、い~~~っつも!任務ら、任務らって留守ばっかり~。そんなに任務がだ~いすきなの?」
微妙にろれつの回ってない口調。
「し~か~も~ぉ、急に任務に入ったら~、出発した後で連絡するんれすもの。『行ってらっしゃい』もれきないじゃないれすか~」
どんどん目の据わってくるリリーナに詰め寄られ、ヒイロは思わず後ろに引いてしまう。
それにあわせてリリーナがどんどんヒイロに詰め寄っていく。
「任務なら任務~で、ちゃ~んと出発前に連絡してくらさ~い。でないと、わらくし、あなたがまたどこかに行方をくらましたんじゃないかって、心配するじゃないれすか~!」
ほぼ、勢いにのせられて、顔と顔をほぼ20センチほどの間をもってつき合わせているような状況。
目の前のリリーナの目は、酔いも背をおして、機嫌が悪いと物語るように据わってしまっている。
「ヒイロが帰ってくると思って、わらくし、ご飯も作ってるんれすから、連絡してくれなくちゃ無駄になるじゃないですか~」
下手に言い訳すると、今度はどんな言葉が返ってくるのか、想像するのもある意味引ける。
まだ、自分たち二人だけの状況でなら良いとしよう。
だが、ここはギャラリーが多すぎる。
実際に、二人の様子に気がついた周囲の連中は、リリーナとヒイロの様子に注目している。
『妹(リリーナ)激LOVE』とシスコン丸出しであるミリアルドでさえ、妹の様子にあんぐりとしている。(多少酒が入っているというのも手伝っていたが)
やばい、やばい、これはやばい。
このままでは今後しばらく、このネタでからかわれること必至である。
そして、目の前であんぐり間抜け面をしているシスコン男に八つ当たりを敢行されるのも目に見えて……。
なんとか、状況打破のため、口を開こうとしたヒイロだったが、それよりも先にリリーナのとった行動により、それもできなくなってしまった。
リリーナの据わっていた目が一瞬で、にこーっとなると、後は満面の笑みを浮かべた彼女がそこにいた。
「でも、ちゃんと帰ってきてくれたのれすから~、わたくし許しちゃいま~す」
「…はいっ?」
あまりにも急展開なリリーナの変貌に、あっけにとられるヒイロと周囲ご一同様。
そんなヒイロを気にもせず、リリーナはそのままヒイロの腕に自分の腕を絡ませてその身をよせた。
巷でいうラブラブ密着状態。
満面の笑みを浮かべ、幸せそうにヒイロに擦り寄っているリリーナはものすごく幸せそうだ。
そして、あっけにとられたのはヒイロだけではない。
急展開でラブラブカップルぶりを見せ付けられたようなもの。
そんな周りを気にも留めず、リリーナはご機嫌満開だった。
「ウフフフフフフ……」
彼女は笑い上戸なのだろうか?
はたまた絡み上戸?
その場の一同、皆同じことを考えていた。
ヒイロは小さくため息を一つ。
「……おまえの言い分はよく分かった。帰るぞ、リリーナ」
強行突破、いや、強制送還。
早いところ、酔っ払い状態のリリーナを連れ帰るに限る。
ヒイロはリリーナを立ち上がらせようと促した。
しかし、こういう状況というものは、とことん転がり落ちるところまでいくのが定石。
今回も、もれなくその条件が発動してしまったらしい。
「は~い、……あららら」
いったん立ち上がろうとしたリリーナだったが、ちゃんと立ち上がる前にバランスを崩してしまった。
そのまま、倒れそうになった彼女を必然的にヒイロが受け止める形になる。
ヒイロの腕の中に、リリーナがしっかり収まって…………。
再び、密着ラブラブ状態再開。
しかも、はたから見れば二人は抱き合っているように見える。
その場に居たもの全員の、思考回路はまたまた一時停止。
再び動き出すまでの時間、一人につき平均およそ12.5秒。
そして、その状態からいち早く復活したのは二人。
ヒイロ自身と、そして…………。
「のぉぉぉぉおおおぉぉお~っ!!」
(NO~!と言いたいらしい)
ご丁寧に、その場にあったカラオケ用マイクにてエコーまでかけてまで、その叫びを披露してくれたのはプリベンター本部名物『シスコンにーちゃん』もとい、ミリアルド・ピースクラフトその人。
細かいところを突っ込めば、マイクを持った小指がぴんと立っていた。
目に入れても痛くない愛する妹と、憎きヒイロ・ユイのツーショット。
これが叫ばずにはいらいでか!
ミリアルドは抗議の言葉をこめて、もう一度マイクを握りなおし(それでもやはり小指は立っている)こぶしを効かせて言葉を発しようとした瞬間だった。
ゴンッ! ガンッ!! ドスッ!!!
「ぐえっ……」
見事、ノインとレディ・アンによる拳骨が頭上に、そして五飛のけりがみぞおちに炸裂。
第二の叫びを発することなくミリアルドは畳に沈んだ。
「近所迷惑ですよ、ゼクス!ただでさえ日ごろからあちこちにご迷惑をかけているんです。いいかげん自粛してください!」
「そんな大声をマイクで通すとスピーカーをはじめ、カラオケ機材を壊してしまうではないか!経費削減のさなか、余計な出費を出させるな!」
「貴様!それでもお前は正義か!!」(←五飛さん、微妙に論点違います)
「ああー、はいはい、ロープロープ、おさえておさえて~」
赤い顔で、目つきの据わったノインとレディ、五飛を、サリィが押える。
「ヒイロ、ことが大きくなる前にリリーナをつれて帰ってあげて、ねっ?」
「もとよりそのつもりだ」
サリィのとりなしに、頷くヒイロ。
「帰るぞ、リリーナ」
「嫌~、もっと居ます~ぅ」
ヒイロの腕の中で駄々をこねるリリーナにヒイロは諭すように言う。
「この状態でまだ飲むのか?明日がつらいぞ」
「…ん~、大丈夫です~」
とかなんとかいいながら、しっかりと眠そうなリリーナ。
もともと、彼女はそんなにアルコールに対して耐性があるほうではない。
しかも、彼女自身の自己申告『コップ三杯程度』の量でも、十分に酔えるのだ。
明日、二日酔いで苦しまなければいいが……、と心配もしながら、眠たげな彼女を抱きかかえる。
「ぬぁ!……むむむぐっ」
その状況にミリアルドが何かを言いそうになったが、余計なことは言うなとばかりに、ノイン&レディの手によって口を封じられた。
その目は面倒なことになる前にさっさと行けと言っている。
ヒイロとしても、ミリアルドが黙ってくれていることに越したことはないので、それに従うことにする。
いわゆるお姫様抱っこで眠そうなリリーナを抱えると、ヒイロはカトルを見た。
「カトル、本部まで車は出せるか?」
「え~。ボク飲酒済みだから、運転できないよ~ん」
「誰が車を運転しろと言った。車を貸せと言っているんだ」
「や~ん、ヒイロってば目が怖い~」
「やかましい」
ケラケラと笑いながら、カトルはジャケットのポケットからキーをだし、ヒイロに渡した。
「車は本部のボクのスペースに置いといて~。どうせ、ラシードにもって帰ってもらうつもりだったし~」
じゃぁね~っと、カトルはいかにも『ボクはなにも企んでないよ~』と手を振っている。
その笑顔に、胡散臭さを感じながらも、ヒイロはカトルの車を借りてとりあえず本部にまで戻ることにした。
連れがリリーナなので、うかつにタクシーなんて呼べるものではないし、本部に戻れば自分の車がある。
「じゃあな、邪魔したな」
「今度は一緒にのも~ね~」
「せっかくだが、次も遠慮しておく」
「つれね~なあ、ま、お前は俺たちと飲むより、お嬢さんと二人っきりで飲むほうが好きだもんなぁ~?」
ようやく先程のショックから復活したデュオが絡んでくる。
ヒイロは両腕リリーナと車のキーでふさがっているため、にらむ程度にしておいた。
「デュオ、それ言っちゃだめですよ~。ホントのことなんだから~」
カトルの言葉は全然フォローになってない。
(こいつら、酔っていても普段と変わらないじゃないか……)
日ごろの言動がものをいう。
そして、
「若いっていいわよね~」
座敷を出て行ったヒイロを、サリィの一言が見送った。
「う…ん…、あら?」
リリーナが目を覚ましたら、そこは車の後部座席だった。
「目が覚めたか?このまま朝まで眠っているのかと思ったぞ」
運転席からはヒイロの呆れたような声。
「酔っている自覚があるか?」
「ん~、わたくし酔ってません~」
「……十分に酔っているな」
確認完了。
「ここは?」
「俺の車だ。帰宅途中だが」
「え~、もう少し……」
「これ以上飲むのであれば、帰ってからにしろ」
「でも~……」
「でももストライキもない。自分の状態が分かっているのか?」
バックミラー越しに見るヒイロは、不機嫌を物語っている。
「だって、ヒイロと一緒に飲むときは、わたくし、もっと飲んでますでしょ?」
「外では飲んでいない」
リリーナも食い下がる。
やはり、まだ残る酔いが後押ししているのだろう。
「わたくし、酔っていても自制できますわ」
「その普段、コップ数杯ですぐに酔いつぶれて眠ってしまうやつに言われたくないな」
「……………………」
即答で反論され、ぐうの音もでない。
リリーナはリリーナで、なにかヒイロに反論する方法はないかと思考をめぐらせる。
だが、そんなリリーナの耳に、小さくヒイロのぼやきが届いた。
「この状態で、あいつらのところに置いておけるか。いくら見知った連中とは言え、あいつらも男なんだぞ」
すこしは危機感を持ってくれ……。
ヒイロはそうため息をついた。
その呟きをリリーナはどう解釈したのだろう。
なにかひらめいたような表情を浮かべると、とたんに満面の笑みを浮かべた。
その様子を見ていたヒイロは、ミラー越しで怪訝そうに彼女を見る。
満面の笑みを浮かべたリリーナは、なにやら満足そうにたった一言。
「わかりました。ヒイロ、皆さんにやきもち焼いてくださったのですね」
ニコニコニコニコニコニコニコニコニコニコ。
……………………………………………。
どうやら、先程のヒイロの呟きから、リリーナの頭の中で、
皆と酒を飲む ⇒ ヒイロが止める ⇒ 酔った自分を他人に見せたくない ⇒ つまりやきもち
という方程式が成立したらしい。
それはそれで、あながち外れてはいないだろう。
もしその場に第三者が居れば、なんてわかりにくいやきもちだろうかと思っただろう。
ヒイロにしてみれば、それを認めるのは不本意でしかないのだが、相手は酒に酔っているリリーナだ。
どうせ明日になればすっかり忘れてしまっているだろう。
「ああ、そうかもな」
適当に、この場は彼女の機嫌を損なわないように、投げやりな言葉で返す。
「それって、ちょっと嬉しいかも~、うふふふふふ……」
ちょっとどころではなさそうな笑みを浮かべ、至極機嫌がよさそうだ。
「ヒ~イ~ロ」
「何だ?」
「なんでもなありませ~ん」
「…………寝てろ」
「寝ているなんてもったいな~い。もっとヒイロとお話してます~」
後部座席から身を乗り出すようにして、リリーナはヒイロに話し掛ける。
「だって、いつもあまりヒイロとお話できないままなんですもの、こういうチャンスは最大限にフル活用しなくてはね」
ヒイロが止めようとするのも聞かずに、器用に後部座席から前部助手席に移り座ると、すばやくシートベルトをつけた。
「帰ったら、もっといっぱいお話しましょうね、ヒイロ」
首をかしげて、ヒイロの顔を覗き込みながらクスクスと小さな笑み。
そして、
「いつもヒイロはお仕事お仕事で忙しいのですもの。わたくしだってヒイロのお仕事にやきもち焼いちゃいますわ」
ヒイロの無表情な目が、ほんのわずかだが驚きで揺らいだ。
「だから、おあいこかしら、ねっ?そう思いませんこと?」
そんなヒイロの反応をさも楽しそうに、そう付け加えた。
「わたくしたち、お互いでお互いの環境にやきもちやきさんなのですね~」
ヒイロは、おおきく長いため息をついたのち、ようやくリリーナに同意した。
「…………………かもな」
こうして、プリベンター『ウイング』こと、ヒイロ・ユイはようやく任務後の疲れを癒すべく自宅にだどりつけたのだった。
そして、こういうことは久しぶりのことだったので、皆すっかり忘れていたのだ。
そう、プリベンターズの中ではもはや暗黙のルールとなりつつあったこの教訓を。
教訓、ヒイロだけは絶対に敵にまわすな。
新年早々プリベンダー本部に、『ヒイロ・ユイ プレゼンツ 新年会・報復の嵐 イッツ ア ショータイム!(Byカトル命名)』が、例年よりも気合こもって巻き起こったかどうかは、また別のお話。
毎年恒例になりつつあるこの行事が、プリベンター本部のひそかな名物だというのは周りのものだけが知っている。
プリベンターズは今日も平和だ。
………… 一部の重症要員を除いて。
合掌。
---------------------------------------------------
ある方に『やきもちを焼くヒイさん(ヒイロのことね)を書いて欲しい』というリクエストをいただきまして、それを目指して書いたの…です…が……(--;
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