Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by ino(いの) - 2008.09.17,Wed
コンコンと、部屋のドアをノックする音。
そして、少し控えめな声。
「ヒイロ、居ますか?」
就寝前のわずかな時間。
部屋の明かりを落とした後だったので、この部屋は薄暗い。
部屋の主である青年は、ゆっくりとドアに近づいた。
「どうした?」
ドアをあけると、そこには微笑むリリーナの姿。
「今日、お兄様から送られて来たのです。一緒にいただきませんか?」
彼女の手にあるのは一本のワインと、二つのワイングラス。
「かまわないが……」
ヒイロはドアの横の照明スイッチを入れ、彼女を部屋に招きいれた。
リリーナは、部屋においてあるテーブルにグラスを置くと、手馴れたようにコルク栓を開ける。
甘いワイン独特の香りが鼻腔をくすぐった。
「わたくしが生まれた年に、あの国でつくられたワインだそうです」
紅いワインを、グラスに注ぐと、一つをヒイロに差し出した。
リリーナのいうあの国。
サンクキングダム。
あの国で、彼女が生まれた年につくられたワイン。
瓶には確かにサンクキングダムの紋章と、『プリンセス御生誕記念』と、彫られていた。
「よく残っていたな……」
「偶然、お兄様が見つけたそうです。無理を言って譲ってもらったものだとか」
あの男ならやりかねないな。
ヒイロはそう思った。
「『大切な人と…』というメッセージが添えられていましたわ」
大切な人。
彼女のいう、大切な人というのはどういうものなのだろう?
受け取ったグラスの中に満たされた、濃い紅の液体を見つめ、ヒイロはそう思った。
「わたくしの大切な人は、ヒイロなの」
両手でグラスを包むようにもち、微笑む彼女。
ヒイロはどう答えていいものか分からなかった。
胸の中に湧く、この感情はなんだろう?
何も言えないまま、ヒイロは手にしたワインと、リリーナを見比べた。
そして、小さくつぶやく。
「いいのか?」
想いのこもった問いかけ。
「ええ」
至極簡潔な、それでいて、すべてを語る彼女の答え。
これが二人の関係。
ヒイロは目の前の女性を見やる。
未だ口をつけずに、ルビーのような紅い色のワインを、じっと見つめる彼女の横顔に、少し頬を赤らめ、思わず目を細める。
「飲まないのか?」
「そうですね。じゃぁ、乾杯しませんか?」
「そうだな」
軽く、二つのグラスがぶつかる音。
口にしたワインの味は心地よかった。
「おいしいですね。葡萄そのものを味わっているような…」
「ああ、そうだな」
二人は、それぞれ一杯のワインを、ゆっくりと時間をかけて味わった。
「もう一杯いかが?ヒイロ」
リリーナは、空のグラスを手にしていたヒイロに、すすめる。
ヒイロは少し考え込み、答えた。
「いや、俺は…………」
そういって、ゆっくりと彼女に近づく。
「こっちのほうがいい……」
ヒイロの唇がリリーナの唇に触れる。
かさなり合った唇からは、ほんのりワインの甘い香りがした。
それは、二人の香り。
たった一つの、二人だけの夢
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無性に、背筋が痒いのは気のせいか?!
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