Null(ヌル)=そこに値がなにもないこと。何ら意味を持つ文字ではないことを示す特殊な文字。ここは"0"ですらない半端なものばかり。
Posted by ino(いの) - 2008.08.25,Mon
1 テディ・ベア 
2 勝負?
3 あ~ん
4 まくらならべて
5 コミュニケーション
6 メッセージ
7 先生と生徒
8 kiss kiss kiss
9 メリークリスマス
10 ささやき
11 シャワー
12 秘密の恋人
13 ないしょのデート
14 たまには……
15 姫
1 テディベア
「イタッ!」
リリーナの声に、ヒイロは驚いて彼女を見た。
そこには、左の細い指をじっとにらむリリーナ。
ひざの上には茶色い布。
右手には細い縫い針。
左の人差し指には、小さな紅いにじみ。
ヒイロはその色に眉をひそめた。
およそ、彼女には似つかわしくない色。
「なにをやっている?」
彼の質問に、
「やっぱり、慣れないことをするものではないということでしょうか?」
と返す彼女は、指先の血をひとなめ。
ますますもって訳がわからない。
そんな表情の彼に、
「これから、テディベアになる予定なの」
と、リリーナは、はにかみながら付け加えた。
「それはわかる」
あいかわらず、見たそのままを受け取ったヒイロの答えに、
「このテディベアは、ある人への贈り物なの」
と、リリーナは付け加えた。
「……………………そうか」
誰だろうな、彼女からの手作りのテディベアを手にすることのできる幸運な人間は。
と、某おさげの同僚なら言いそうな台詞も、素地のないヒイロに求めてはいけない。
そんなヒイロに、リリーナがトドメの一言。
「このテディベアの名前はね、もう決まってるのよ。『ヒイロ』なの」
なぜ?と表情が物語るヒイロに、リリーナがもう一言。
「だって、これは貴方への贈り物ですもの」
あっさりとネタばらし。
あっけないけれど、この朴念仁に察しろというほうが無理な相談だ。
「………………………………そうか」
しばし間をあけて返したヒイロの口調は、どことなく嬉しそうだった。
2 勝負?
「おおっ、ヒイロ!今日はリリーナお嬢様の愛妻弁当か?!」
「いいなぁ、ヒイロ。ドロシーなんか、お願いしても意地張って作ってくれないもんなぁ~」
「フッ、仲がいいことだ」
「俺も、明日はヒルデに作ってもらお~っと」
「貴様はそれよりも、目の前の始末書を仕上げろ」
「………いや、俺がつくった」
【しばらくお待ちください】
「なにぃぃぃ!?」 ※4人
「そ、そんなに驚くことなのか?」
「い、いや、驚くもなにも、普通、そんな弁当広げてたら、かわいい彼女か奥さんか?って考えるだろ」
「うんうん」※デュオ以外の3人
「そんなものなのか?」
「そんなもんなの」
「まぁ、一般論的にそう思うのが普通だろうね」
「俺にはよく分からんが、リリーナは朝が早い上に、普段もろくに昼食をとる時間が無い。俺が護衛につかない日はこうやって俺が弁当を作っているが……」
「うわ~、つくしてるね~、ヒイロ。リリーナさんをそこまで気遣うなんて」
「当たり前のことだろう」
「…………まぁ、当たり前と言やぁ、当たり前かもしんねぇな」
「でも、それも面白いかも。僕もドロシーにお弁当作ってあげようかな~?」
「止めておけ、カトル。料理に使われる材料とそれに伴う材料費、それにキッチンの修繕費、さらにはマグアナックたちの心労が無駄になるぞ」
「ひどいなぁ、トロワ。僕だって、料理ぐらい出来ますよ~だ。そういうトロワだって、キャスリンさんに作ってあげればいいじゃないか」
「ふむ、そうだな……、たしかに日頃いろいろと世話になっている……」
「そう考えれば、たまには俺もヒルデに弁当ぐらい作ってやらねぇとなぁ~。あいつにゃかなり世話になってるし」
「ほう、お前も料理などと言うものが出来たのか?」
「うるへぇな。俺だってその気になりゃ料理の一つや二つ……、そういう五飛こそ出来るのかよ?!」
「フン、造作も無い」
「お、言ってくれるじゃねぇか!じゃぁ、お前も作ってこいよ!!そうだな、弁当の行き先はお前がいつも迷惑かけているサリィ姐さんだ!」
「よかろう!貴様などには負けん!!」
「じゃぁ、僕もその勝負のった!僕はドロシーに作ってあげるんだ!」
「俺もその勝負、一口のろう」
「よっしゃ、じゃぁ、明日はそれぞれが腕によりをかけて相手に弁当つくる。で、同じものをもう一つ作って、ここで見せあいっこだ」
「わかった、明日だね」
「もちろん、ヒイロの参戦は確定だぜ。言っとくが、お前にゃ負けねぇぞ~!」
「勝手に決めるな!」
とりあえず、いつのまにか「誰が、一番良い愛妻弁当を作ることができるのか?」と勝負することになっていた5人であった。
3 あ~ん
「おおっ、ヒイロ!今日もリリーナお嬢様とおそろいの愛情弁当か?!」
「いいなぁ~、ヒイロ。ドロシーは、お願いしても結局意地張って作ってくれないもんなぁ~」
「フッ、あいかわらず仲がいいことだ」
「明日もヒルデに作ってもらお~っと」
「貴様は、さっさと目の前の山になった報告書を書け!」
「…………………いや、これはリリーナが作った」
【しばらくおまちください】
「なにぃぃぃ!?」 ※4人+α
「そ、そんなに驚くことなのか?」
「い、いや、驚くもなにも、この前のお前の返答聞いたら、『今日もお前が作った』って考えるだろ~が」
「うんうん」※デュオ以外の3人+α
「そんなものなのか?」
「そんなもんなの」
「まぁ、一般論的にそう思うのが普通だろうね」
「俺にはよく分からんが、最近料理に目覚めたらしくな。ただでさえわずかな時間をフルに料理の練習に……、ここ数日は弁当に使える料理をと……」
「うわ~、つくされてる~、ヒイロ。リリーナさんの愛情手料理独り占め~」
「俺はリリーナと共に生活している。必然的にそうなるのは当たり前のことだろう」
「…………まぁ、当たり前と言やぁ、当たり前かもしんねぇな」
「でも、それも面白いかも。僕もドロシーにお弁当作って~って頼んでみようかな?」
「止めておけ、カトル。やはり料理に使われる材料とそれに伴う材料費、それに調理道具の費用、キッチンの修繕費、さらにはカタロニア家使用人たちの心労が無駄になるぞ」
「ひどいなぁ、トロワ。ドロシーは見かけによって意外と料理上手なんだよ。そういうトロワだって、キャスリンさんに作ってもらえばいいじゃない。最近サーカスじゃあ、ずっとトロワが夕食当番なんでしょ?」
「キャスリンの得意料理はスープ類だ。しかも、お世辞にもあまり上手いとは言えたものでもない。サーカスの平和を守るには、キャスリンに料理をさせてはいけないんだ……」
「そう言えば、いつぞやは、まずいスープを馳走になったな……」
「五飛も、トロワも、それ、キャスリンさんの前では絶対言っちゃダメだよ。彼女に対して失礼だし、傷つくと思うな」
「安心しろ、カトル。本人ご公認、すでに自覚済みだ」
「………………………………(^^;」
「その点、ヒルデは料理めちゃくちゃ上手いぜ~!」
「ヒルデさん、家庭的な人ですしね」
「フンッ、あからさまなのろけだな」
「なんだよ、五飛。自分に手料理を作ってくれる可愛い彼女が居ないからって、そうひがむなよな~」
「お、俺は、ひがんでなんか……」
「家に帰れば、うまそーな匂いがキッチンからぷ~んと漂っててさぁ、玄関先で腹の虫がグ~ってなもんよ!」
「のろけだな」
「ああ、確実なのろけだ」
「くだらん」
「まぁまぁ、五飛、うらやましいって素直に言えばいいじゃないですか。あ、でも五飛の場合、サリィさんやレディ女史のほうが忙しいでしょうし、マリーメイアちゃんに頼んだらかえって五飛の気苦労が絶えないでしょうね」
「カトル、それ本人たちの前で言えるか?」
「やだなぁ、そんなこと言ったら明日の地球は拝めませんよ~」
「明日の地球……って、コロニー生まれだから、言える格言だよなぁ~……」
「ところで、なぜここにゼクス・マーキスが居るんだ?」
「え、ミリアルドさん、さっきから居ましたよ。さっきだって、ちゃんと『ああ、確実なのろけだ』ってデュオに突っ込んでましたし」
「居ちゃ悪いか?」
「まぁ、そうヒネなさんなって、ゼクスのダンナ~。ど~せ、可愛いリリーナお嬢様に会いにきたんだろ~『ヒイロ~!可愛いリリーナに近づくな~!!』ってさ」
「カトルといい、デュオといい、私はそんなしゃべり方はしないし、ヒイロを目の敵にした覚えはない!」
「された覚えはあるが……( ̄_ ̄〆」
「……はて、そうだったかな?( ̄∀ ̄」
バチバチバチバチバチ……
※ヒイロ⇔ミリアルド間で火花が散っている
「だ、だけど、リリーナさんの手料理か~、うらやましいね。ね、デュオ」
「そうそう、俺もこの前リリーナお嬢さんがヒイロと晩飯食ってるとこに出くわしちゃったしな~」
「うわ~、お邪魔虫は疫病神より嫌われるよ~、デュオ」
「馬に蹴られてなんとやらだな」
「ヒイロなら完膚なきまでに蹴り飛ばしそうだな」
「俺は馬か」
「そんでもって、『ヒイロ、はい、あ~んvv』とか言って、食べさせてもらっちゃってたりするんだよなぁ」
「事実無根だ」
「……………………………………………お…おのれ」
「相変わらず、リリーナさんとラブラブなんだから、ヒイロってば」
「ヒイロぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!きぃさぁまぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「……だから、事実無根だと……」
結局、いつもの通り、飄々と何気に熱々カップルぶりを見せるヒイロと、シスコンぶりを発揮して叫ぶ名物男ミリアルド、そして周りでミリアルドを抑える4人であった。
合掌。
4 まくらならべて
狭いシングルベッドに枕2つ。
いつの間にか、それが定着してしまった。
シングルベッドなのだから、枕の数と同じ人間がこの上で眠れば、狭いことは目に見えている。
だが、これでいいとも思えてしまう。
自分が一人きりではないという証のようにも思えるから。
たとえ、離れていても、ここに帰ってくる。
そう思えるから。
5 コミュニケーション
「なんじゃこりゃぁ……」
その日、外回りの仕事から帰ってきたデュオ・マックスウェルの第一声はそれだったという。
それもそのはず。
目の前には、信じられない光景。
「し~……」
思わず大声を出してしまいそうになったデュオに、人差し指で静かに、とゼスチャーするのはリリーナ。
慌ててデュオはそのおしゃべりな口を両手で押さえ、頷いた。
「どうしたんですか、デュオ?」
後ろから、入ってきたカトルに、慌ててデュオは静かにというゼスチャーをする。
「?」
首を傾げるカトル。
デュオは、その理由を指差した。
その先に居たのは、ソファーにくつろいで微笑んでいるリリーナ……と、ヒイロ。
「あらら……」
思わず、そんな言葉が出てきたり。
「……珍しいよな」
「ええ、リリーナさんならともかく、ヒイロが僕たちの気配で目を覚まさないなんて」
ひそひそと、デュオとカトルは頭寄せ合って、目の前の珍しい光景に驚いている。
ヒイロは、眠っていた。
連日の疲れだろう。
応接用に設置されたソファの上、デュオやカトルが入ってきても、その気配に起きることはなかった。
そのヒイロの横で、リリーナは微笑んでいる。
「リリーナお嬢さん、さっきからずっとそうしてるのか?」
小声で、聞いてみると、リリーナはニッコリ笑って頷いた。
「それで、幸せ?」
不思議そうにそう聞くデュオに、リリーナは「とっても」と小さく返す。
あのヒイロが、他人の気配で目を覚まさない。
それだけ、信頼されているということだろう。
リリーナにはそれがわかっている。
だから、側に居られるだけで嬉しい。
安心して眠ってもらえることが嬉しい。
心が通じている。
それはこういうことかもしれない。
そして、それが二人のコミュニケーションなのだろう。
6 メッセージ
「?」
まわされてきた四つ折のメモ。
通信技術の発達した昨今、こういうレトロな手段は珍しい。
第三者に漏洩する確立も高く、証拠も残りやすいこの手段を使ってきた人間は誰だと、目を通す。
くしゃり、とメモを握りつぶすと、立ち上がった。
メモを回してきた本人の前に立つ。
「あら、ヒイロ」
迎えうつは、地球圏統一国家の、……いや世界のリリーナ・ドーリアン外務次官。
「何を考えている」
「何って、ヒイロはランチ、どうするのかしらと思って」
「そういうことは直接聞けばいいだろう、すぐ側にいるんだ」
そう、二人の距離はデスク二つ分ほど。
「だって、そのほうが内緒の話みたいで楽しいじゃない」
「昼飯どうのこうので、内緒話もないだろうが」
「なんだか、授業中に回す内緒のメッセージみたいでドキドキしませんか?」
わたくしそういうことにあこがれてましたのよ、とニコニコ、屈託のない笑顔。
対するヒイロは、学校に通った経験はあっても、そんな理屈わかるわけない。
ニコニコニコニコニコ……。
「…………」
わかるわけがない……。
大きなため息ひとつ、こういう場合先に折れるのは彼だろう。
「…………行き先を決めておけ……」
「は~いv」
至福の笑顔を浮かべたのは、この世で一番愛しいアイドル外務次官。
有名人の秘書というのも、なかなか大変だ。
さて、問題のメモに書かれたメッセージ。
『 ランチタイム、ご一緒しません? 』
7 先生と生徒
「ユイ先生!」
自分を呼ぶ声に足を止める。
振り返ると、駆け寄ってくるこの学科では珍しい女生徒。
彼女は、かなり向こうから走ってきたのだろう。
自分の側まで来ると、大きく息をついた。
確か、彼女の名前はリリーナ・ドーリアンだったと記憶している。
「……なにか?」
平素から、自分に用だとやってくる生徒は珍しい。
特に、彼女とは数種のプログラミング授業を受け持っているだけの間柄だ。
「え~と、あの、その……」
もじもじと、目の前の女生徒は言いにくそうに。
「あの、先生の授業で、少しわからないところがあるので、その……」
彼女が理解できていないと言うのは、自分の教え方が悪かったのだろう。
そうヒイロは判断した。
「すまない、俺の力不足だ」
「いえっ、ちがいますっ、ユイ先生の授業、わかりやすいです」
謝るヒイロに、慌てて首を振る彼女。
蜜色の長い髪が揺れる。
「ただ、わたくしがちゃんと理解できていないだけのことで……、すいません」
「いや、しかし……」
「だから、あの、ご迷惑でなければ……教えてもらえませんか……?」
語尾に近付くにつれ、小さくなる声。
真っ赤になって、俯き加減で。
そのしぐさが愛らしいと思ってしまうのは、男の性だろうか?
「別にかまわないが……」
ヒイロの返答に、パァッと明るくなった彼女の笑顔。
「ありがとうございますっ」
しかし、残念なことに、次の授業を知らせる予鈴。
「放課後、お邪魔してかまいませんか?」
「ああ、かまわない。俺は教務室にいるはずだ」
ヒイロのみ、担当学科と教務の特性上、全体の職員室とは別の場所に教務室がある。
「はい、よろしくお願いしますねっ」
と彼女はぺこりと一礼、次の授業に出るべく走っていってしまった。
ふわりとした空気を残して。
教員生活数年目。
これが運命の出会いだったと、考えもしなかった。
だが、この約束が二人をつなぐきっかけになろうとは。
先生と生徒。
当分は微妙な関係。
ど こ の し ょ う じ ょ ま ん が だ こ れ は。
Majiで砂吐く●秒前←オイ
8 kiss kiss kiss
何度も交わすキスの数だけ
アイシテルと伝えたい…………
「何回くらい、キスしたのかしら……?」
「さぁな」
何度も何度も、お互いの熱を感じながら、眩暈がしそうなくらいのこの思いを感じ続ける。
「これから、何回キスするのでしょうね、わたくしたち」
「さぁな」
そっけない彼の言葉。
「あなたを好きって思うごとに、したくなりそうだわ」
クスクスと、小さな微笑。
でも、「好き」と思うたびだけじゃ、どこか物足りない。
「だったら、ずっとしていないと間に合わないな」
「あら、本当だわ」
このあふれんばかりの思いは、キスだけじゃ伝えきれない。
9 メリークリスマス
『恋人はサンタクロース』
いつの時代の唄だったかしら?
「何のマネだ、デュオ、トロワ、カトル」
「何って、どう見てもサンタクロースじゃねぇか」
「この時期はこの格好をすると、客にウケが良くてな」
「今年はね、ドロシーにクリスマスプレゼントもって行くときは、この格好で驚かせるって決めてたんだ」
「……………………」
目の前に、赤い服の3人。
フルフルと、顔を真っ赤にして小刻みに震えている五飛。
本人は必至に笑いをこらえているつもりのようだが、結論としてまったくこらえられていないサリィ。
「ふむ、マリーメイアのために、ぜひうちにも出張してもらおうか」と頷いているのはレディ・アン。
「ヒイロの分も用意してあるんぜ、ほれ」
デュオのサンタ袋から、取り出されるサンタスーツ。
「このかっこでお嬢さんにクリスマスプレゼントのひとつふたつジャジャ~ンとお届けすれば、リリーナお嬢様大喜び間違いなしだぜ!」
「……却下……」
猛烈に頭痛がするのは気のせいか?
そして、ふと何かを思いついたようにカトル。
「デュオ、トロワ、五飛も、ついでにサリィさんとレディさんもちょっと……」
と、ヒイロ以外の皆を手招きすると、ぽそぽそと何かを耳打ちし始めた。
時折、デュオの「おおっ」や、サリィの「楽しそうねぇv」や、五飛の「くだらん!」ということばが聞こえるが、蚊帳の外であるヒイロには、その集団が何を話しているのか、わからない。
「この方向でいいですね?」
というカトルの締め。
なにがいいのだ?と思ったときにはすでに時遅し、さっさとこの場を退出していればよかったと後々後悔することになる。
くるっとこちらを振り向いたサンタ3人組の顔。
ニヤリと、どこか怪しい笑み。
ため息をつきながら、「贈答用のラッピング材など、本部にあったか?」と棚をあさり始める五飛に、「今回はウィナー家がスポンサーだ。特注でいいだろう」と、宅配業者に連絡をつけるべく電話帳をめくり始めたレディ・アン。
「すっごぉくた~のしくなりそぉね~!」と注射器とアンプルを取り出し、なにやら薬を調合し始めたサリィ。
嫌な予感が頭をよぎる。
逃げろ、とヒイロのエージェントとしての勘が、危険を察知していた。
「デュオ、トロワ、失敗は許されませんよ。いいですね?」
「あったぼうよ~」
「了解した。一撃必殺だ」
「!!」
壮絶な物音と、抵抗による乱闘音が響いたのち、プリベンター医療班班長サリィ・ポゥの的確な処置によりこの戦いは赤服サンタ3人衆の勝利と相成る。
「さて、デコレーションを急がなくては」という、カトルの声を、ヒイロは遠くに聞いたような気がした。
『恋人はサンタクロース』
だが、この場合は『恋人は友人がサンタクロース』
ヒイロには、悪魔のようにしか見えなかったが。
10 ささやき
時々、耳元にふわっとささやかれる言葉。
今日の晩御飯、何にする?とか、
たわいのないやり取りだったり、
大好き、と
恥ずかしそうな、愛の言葉だったり。
耳元で、やわらかく響く。
心地よい音。
そして、その後のはにかむような笑顔。
彼女のささやきは、いつでもやさしく。
そして、なによりも甘い。
11 シャワー
「お前、ほんとに健全な青少年か?」
デュオの言葉に、ヒイロは首をかしげた。
「この状況で、なんとも思わねぇのかよ!?」
「だから何をだ?」
とあるコロニーの、とあるホテルの一室。
居るのはヒイロとデュオ。
本日の任務は、2人で地球圏一最重要人物の護衛だったりする。
よく耳を澄ませば聞こえてくる、シャワーの水音。
そして、シャワーを使っているのは、リリーナ。
「だからぁ、リリーナお嬢さんがシャワー浴びてるだろ?」
「それがどうした?」
じれったそうに、デュオはぶんぶんと手を振る。
「だ~か~ら~!!」
ついでに迷惑にならない程度に大声も出してみようじゃないか、この朴念仁のために。
「自爆したくなるほど大好きなリリーナお嬢さんのシャワーシーンだぜ?!
ちょっとだけでも覗いてみたい!とか、思わねぇのかよ!!」
「思わんな」
即答。
「か~っ!お前ほんとに健全な青年かよ?好きな女の子が無防備にシャワー浴びてるんだぜ?普通こういう状況なら、見たい!触れたい!押し倒したい!って、思うのが健全な青少年っつーもんだろうが!」
オレなんて、ヒルデがシャワー浴びてるってぇだけで、夜9:00台に放送できねぇことバリバリ大妄想だぜ!
「それはお前だけだ」
何をバカなことを言っているんだこいつは、と言わんばかりの目つき。
さらに、トドメをさすかのように、ヒイロはこうのたまった。
「見慣れているものを、いまさら覗いてどうする」
デュオは大きくため息を付いた。
「はぁ、見慣れて…………」
………………………………ん?
「………見、見慣れてる?!」
一息置いて、ようやくヒイロの言わんことを理解したデュオ。
「ええぇえぇえぇぇえぇぇぇえぇええぇええっ!?」
デュオの驚きの声が、ホテルの一室に響き渡った。
今度はしっかりと近所迷惑になる声で。
12 秘密の恋人
『リリーナ・ドーリアン外務次官、熱愛発覚?!』
『お相手は、専属護衛官か?!』
そんな見出しで一面を飾ったスポーツ新聞は、その日の売上を発刊至上最高記録としている。
「まぁ、なんだか芸能人にでもなったような気分ですわね~」
「フッ、真実は噂よりもさらに強烈だがな」
「それに、専属護衛官って、間違いなくヒイロだし~ぃv」
「2人がすでにアッチッチ~だなんて知れたら、大騒ぎだよなぁ~」
「フンッ、ようやく貴様も年貢の納め時ということだな」
「………………(汗)」
一部の新聞を6人で覗き込んで、その上を飛び交う言葉に、ぐうの音も出ないヒイロ。
頭の中では、いつどこで情報が漏れたのだ?でっちあげとしても、なにかしらのきっかけがなければこういうことに発展するはずがない。
あのときか?このときか?それとも……。
ヒイロの頭は、超高速を誇る最新型補助記憶装置も真っ青な速さでここ数ヶ月のことを検分している。
「さぁ、ティータイムにし~ましょっ♪美味しいクッキー買ってきたのよ~」
給湯室から出てきたサリィとレディ・アンの手には、薔薇模様のティーセットとクッキーの乗った皿。
紅茶のほのかな香りが、部屋を包む。
「あ、この香り…」
「これは『チョコレート』ですね」
「わかる~?最近紅茶にはまっちゃってね~」
香りで紅茶の種類を当ててしまうリリーナとカトル。
さすが上流階級の坊ちゃん嬢ちゃんだけのことはある。
「ヒイロはフレーバー系の紅茶がお気に入りですのよ」
「へぇ、それは初耳だなぁ」
何気に己の趣向を暴露されて、視線が自分に集まるのを感じ明後日の方角をみるヒイロ。
そうか、そうか、好みをしっかり把握されるくらい仲がよろしいことで。
ヒイロを見る目が、しっかりとそれを物語っている。
「べ、別に……」
「いやいや、お前にだって好き嫌いはあるよなぁ~」
「そうそう。照れることじゃないよ、ヒイロ」
「ほう、意外と甘い香りが好きなのだな、ヒイロは」
部屋を包むチョコレートのような甘い香り。
レディの言葉に、リリーナを覗く他の面々が、まるで何かいたずらを思いついたかのようにニヤリと口元を緩ませていたことを、ヒイロは気づいていない。
ティータイムも終わり、リリーナは次の仕事へ、ヒイロはその護衛にと出て行く時間になる。
2人を見送った直後、カトルが楽しそうに口を開いた。
「ねぇねぇ、僕、いいこと思いついちゃったんだけど」
「あ、お前も?俺も思いついちまった」
「わたしも、わたしも」
「フッ、奇遇だな、俺もだ」
「不本意だが、俺も同意しよう」
「じゃぁ、作戦会議」
カトルだけではない、皆同じようなことを思いついたようだ。
数週間後、世界中に出回る新聞という新聞の誌面を飾ったおめでたい(?)ニュースにより、各誌売上最高記録を、その数ヵ月後大幅に塗り替えられることになろうとは、この時点で誰も、当の本人らでさえも想像していなかっただろう。
そう、今回の黒幕と言っても過言ではない元ガンダムパイロット4人とその上司2人を除いて……。
つーか、最初の情報をリークしたのもこいつら。
2004.3.8
紅茶の種類を紛らわしく表記してあったのを、とある方にご指摘いただきまして、修正いたしました。ご指摘くださった方に改めて、この場で感謝します。m(_ _)m
13 ないしょのデート
『こちら、"踊るピエロ"、目標はA地点を通過』
『了解、そのまま監視を続けてください』
『了解した』
『こちら"笑う死神"、アクシデントの準備バッチリだぜ!』
『ありがとう、君はそのまま待機ね』
『OK、OK!』
「……カトル……、俺たちは一体何をやっているんだ……」
「もう、だめじゃないか、五飛。今のボクは"黒い貴公子"で、君は"叫ぶ双子竜"なんだよ。それに、今は大事な任務遂行中じゃないか!」
「だ~か~ら~!何故こんな茶番をする必要があるんだ!」
「何故って、そりゃ、あのヒイロとリリーナさんがデートだよ、デート」
「それがどうした」
「あのヒイロだよ?あのヒイロが、まともにレディをエスコートできると思う?」
五飛の頭では、想像することすらできない。
「…………」
「できると思わないでしょ!だから、僕たちがこうやって、ヒイロが完璧にリリーナさんをエスコートできるようにお膳立てしてあげてるんだよ!」
出刃亀とどうちがう?
今の五飛に、その言葉は口にできなかった……。
「リリーナさんは、世界のリリーナさんだよ。デートだって、世界のリリーナさんにふさわしいエキサイティングでスリリングでファンタスティックなうえに、おまけでエレガントじゃなきゃ」
お~い、黒い貴公子さ~ん。
何気にとんでもないことを口走ってませんか~?
つーか、エレガントがおまけですか~?
「だから、僕たちがヒイロに協力しなきゃ。これはヒイロの親友である僕たちが、ヒイロに対するささやかな贈り物なんだよ!絶対に成功させなくちゃいけない任務なんだよ!」
目をキラキラと輝かせ、両手を胸の前で組み合わせたカトルは、すでに自分の立てた計画に心酔しているようだ。
というより、いつから任務になったのだろう?
「頭痛くなってきた…………」
頑張れ、叫ぶ双子竜!
慣れてしまえば、怖いものはない!
……………………え?
どっちがないしょなんだ?!
ちなみに、サリィは"衛生班の美少年探知機"、レディは"赤薔薇の二重人格"というコードネームだったり。( ← オイオイオイオイ)
14 たまには……
「ねぇヒイロ、たまにはこういうのもいいんじゃない?」
「?」
カトルが指差すは、目の前の大きな花壇いっぱいに咲く色とりどりのチューリップ。
「言っている意味がわからん」
それもそのはず、今現在、L2コロニー郡のひとつで強盗騒ぎが勃発。
2人は、制圧のために、敵地へ侵入したばかりなのだ。
「それにしても、許せないよね。こんな場所に立てこもるなんて」
閑静な住宅街。
2人が侵入したのは、某市会議員の邸宅。
もちろん、人質が、その某市会議員なのだ。
「さっさと解決して帰んなきゃ。ドロシーとリリーナさんへのプレゼントを一緒に見に行くって約束してるんだよ……」
「そのことか……」
花壇の影から邸宅内部を伺いながら、ヒイロはカトルの言わんとしたことをようやく理解したようだ。
「そう、それだよ!」
ヒイロがめずらしくまともにこちらの言いたいことを理解してくれたと、カトルは勢い込む。
「君もさ、手作りのテディベアじゃなくてさ、たまにはお花とかさ」
カトルは、一ヶ月先のことを言っているのだ。
一ヶ月先には、リリーナの誕生日がある。
彼女のリクエストで、毎年・年中、なにかプレゼント贈りあうイベントがある度に、いろんな種類のテディベアを贈りつづけているのは、すでに仲間内では有名な話だ。
「クマの手にチューリップを持たせろというのか?それとも、今度は花模様のクマにしろというのか?」
「………………」
毎回、意外性の大きいヒイロの解釈には驚かされてばかりなのだが、今回も期待を裏切らないお約束さかげんに、カトルは思わずその場で脱力した。
「あのね、言葉の意味は、そのまま解釈してくれてかまわないんだよ。ヒイロ」
15 姫
「い~や、やっぱりこっちだよ」
「なに言ってんだよ、彼女ならこっちだろ~」
久々にプリベンター本部に出勤してみれば、目の前でデュオとカトルが言い合っている。
「俺はどっちでも良いと思うが……」
「後は演出でなんとかすればいいんじゃない?」
まぁまぁ、と、見かねて側に居たトロワとサリィが2人をとりなすが、
「なに言ってるんですか、どっちでも良くないですよ!」
「そうだぜ、例え演出がどんなによくっても、元が悪けりゃ意味が無いんだぜ!」
「元が悪いって、聞き捨てなりませんねっ!」
「へんっ、正直にいったまでだよっ!」
「勝手にしてくれ……」
サリィは苦笑し、トロワはため息をつく。
五飛に至っては、あまりのばかばかしさに、この場にすら居ない。
「ねぇ、ヒイロ!ヒイロならこっちだよね!」
「なに言ってんだよ!こっちだよな、な、ヒイロ!」
「……………………(汗)」
ヒイロの目の前に、ずいっと突き出される2冊の絵本。
「やっぱり、女の子なら、シンデレラだよね!」
「シンデレラよりも、やっぱり白雪姫だよな!」
突き出された本の正体は、子供なら一度は目にしたことがあるであろう童話の絵本。
「……それがどうした?」
2人の迫力に、思わず後ずさりたいのを何とか押し留め、ようやく一言ヒイロは疑問を口にする。
何故、この2人は絵本ごときで言い争いをしているのだろうか?
「なにって、ヒイロのところのアイビーちゃんにじゃないですか!」
「そうだ、そうだ!もうすぐハロウィンじゃねぇか、そのときの衣装だよ!」
部屋備え付けのカレンダーを見れば、確かにハロウィンの日付にご丁寧にも赤ペンで花丸がしてあった。
「なぜ、お前らが、アイのハロウィン衣装で言い争いをする必要があるんだ?」
もっともな疑問。
その疑問に、デュオとカトルの2人は愚問だと言わんばかりにこう答えた。
「アイビーちゃんは、僕たちにとっても大事な娘みたいなものなんだよ!可愛いあの子の晴れ舞台に、最高の衣装をエスコートする!しかも、ハロウィンだよ!女の子はやっぱりお姫様の衣装を!当然のことじゃないか!」
「そうだそうだ、うちんとこのガキは放っておいても、アイビーに用意してやりたい親心!お前も分かるだろうが!」
「なに言ってるんだよ!デュオは、ソロ君がいるじゃないか!ヒイロの家庭にまで手を出すなんておせっかいだよ!」
いや、それはカトルも一緒だろ……。
その場に居た、デュオとカトル以外の者は、皆一様に同じことを突っ込みたかったが、突っ込もうものなら、明日の太陽は拝めまいと悟ってもいた。
ヒイロは、大きくため息をつき、こう一言。
「今年は、リリーナがすでに衣装を作っている」
忙しい仕事の合間を縫い、せめてこういうときだけでも手作りのものをと、リリーナはヒイロに手伝ってもらい衣装作りに精をだしていたのだ。
「ほう、よくそんな余裕があったな」
「そうよ、彼女忙しいでしょうに……」
「俺も手伝った、問題はない」
リリーナの激務を知るトロワとサリィが感心している。
そして、サリィの言動が、今まで言い合いしていた2人に一撃を入れていた。
「そうよね~、やっぱりおせっかいな他人より、パパママの愛情たっぷりの方がいいわよね~♪」
グサッ!
「……………………さすがだな」
「五飛が苦労するだけのことはある」
ここには居ない、彼女の相棒役に少し同情してみたり。
「ところで、ヒイロ。どんな衣装を用意してあげたの?」
自分の一言が、デュオとカトルにぐさりと突き刺さったとは気付いていないサリィ。
興味あるわ~と、聞いてくる。
それに対し、ヒイロはこう答えた。
「クマの着ぐるみだが」
またクマか…………。
ある意味、このお約束な選択を、突っ込めるものはこの場に居なかったそうだ……。
2 勝負?
3 あ~ん
4 まくらならべて
5 コミュニケーション
6 メッセージ
7 先生と生徒
8 kiss kiss kiss
9 メリークリスマス
10 ささやき
11 シャワー
12 秘密の恋人
13 ないしょのデート
14 たまには……
15 姫
1 テディベア
「イタッ!」
リリーナの声に、ヒイロは驚いて彼女を見た。
そこには、左の細い指をじっとにらむリリーナ。
ひざの上には茶色い布。
右手には細い縫い針。
左の人差し指には、小さな紅いにじみ。
ヒイロはその色に眉をひそめた。
およそ、彼女には似つかわしくない色。
「なにをやっている?」
彼の質問に、
「やっぱり、慣れないことをするものではないということでしょうか?」
と返す彼女は、指先の血をひとなめ。
ますますもって訳がわからない。
そんな表情の彼に、
「これから、テディベアになる予定なの」
と、リリーナは、はにかみながら付け加えた。
「それはわかる」
あいかわらず、見たそのままを受け取ったヒイロの答えに、
「このテディベアは、ある人への贈り物なの」
と、リリーナは付け加えた。
「……………………そうか」
誰だろうな、彼女からの手作りのテディベアを手にすることのできる幸運な人間は。
と、某おさげの同僚なら言いそうな台詞も、素地のないヒイロに求めてはいけない。
そんなヒイロに、リリーナがトドメの一言。
「このテディベアの名前はね、もう決まってるのよ。『ヒイロ』なの」
なぜ?と表情が物語るヒイロに、リリーナがもう一言。
「だって、これは貴方への贈り物ですもの」
あっさりとネタばらし。
あっけないけれど、この朴念仁に察しろというほうが無理な相談だ。
「………………………………そうか」
しばし間をあけて返したヒイロの口調は、どことなく嬉しそうだった。
ちなみに、ヒイロからのクマは名前は『リリーナ』です(笑)
2 勝負?
「おおっ、ヒイロ!今日はリリーナお嬢様の愛妻弁当か?!」
「いいなぁ、ヒイロ。ドロシーなんか、お願いしても意地張って作ってくれないもんなぁ~」
「フッ、仲がいいことだ」
「俺も、明日はヒルデに作ってもらお~っと」
「貴様はそれよりも、目の前の始末書を仕上げろ」
「………いや、俺がつくった」
【しばらくお待ちください】
「なにぃぃぃ!?」 ※4人
「そ、そんなに驚くことなのか?」
「い、いや、驚くもなにも、普通、そんな弁当広げてたら、かわいい彼女か奥さんか?って考えるだろ」
「うんうん」※デュオ以外の3人
「そんなものなのか?」
「そんなもんなの」
「まぁ、一般論的にそう思うのが普通だろうね」
「俺にはよく分からんが、リリーナは朝が早い上に、普段もろくに昼食をとる時間が無い。俺が護衛につかない日はこうやって俺が弁当を作っているが……」
「うわ~、つくしてるね~、ヒイロ。リリーナさんをそこまで気遣うなんて」
「当たり前のことだろう」
「…………まぁ、当たり前と言やぁ、当たり前かもしんねぇな」
「でも、それも面白いかも。僕もドロシーにお弁当作ってあげようかな~?」
「止めておけ、カトル。料理に使われる材料とそれに伴う材料費、それにキッチンの修繕費、さらにはマグアナックたちの心労が無駄になるぞ」
「ひどいなぁ、トロワ。僕だって、料理ぐらい出来ますよ~だ。そういうトロワだって、キャスリンさんに作ってあげればいいじゃないか」
「ふむ、そうだな……、たしかに日頃いろいろと世話になっている……」
「そう考えれば、たまには俺もヒルデに弁当ぐらい作ってやらねぇとなぁ~。あいつにゃかなり世話になってるし」
「ほう、お前も料理などと言うものが出来たのか?」
「うるへぇな。俺だってその気になりゃ料理の一つや二つ……、そういう五飛こそ出来るのかよ?!」
「フン、造作も無い」
「お、言ってくれるじゃねぇか!じゃぁ、お前も作ってこいよ!!そうだな、弁当の行き先はお前がいつも迷惑かけているサリィ姐さんだ!」
「よかろう!貴様などには負けん!!」
「じゃぁ、僕もその勝負のった!僕はドロシーに作ってあげるんだ!」
「俺もその勝負、一口のろう」
「よっしゃ、じゃぁ、明日はそれぞれが腕によりをかけて相手に弁当つくる。で、同じものをもう一つ作って、ここで見せあいっこだ」
「わかった、明日だね」
「もちろん、ヒイロの参戦は確定だぜ。言っとくが、お前にゃ負けねぇぞ~!」
「勝手に決めるな!」
とりあえず、いつのまにか「誰が、一番良い愛妻弁当を作ることができるのか?」と勝負することになっていた5人であった。
これも立派な勝負……?
3 あ~ん
「おおっ、ヒイロ!今日もリリーナお嬢様とおそろいの愛情弁当か?!」
「いいなぁ~、ヒイロ。ドロシーは、お願いしても結局意地張って作ってくれないもんなぁ~」
「フッ、あいかわらず仲がいいことだ」
「明日もヒルデに作ってもらお~っと」
「貴様は、さっさと目の前の山になった報告書を書け!」
「…………………いや、これはリリーナが作った」
【しばらくおまちください】
「なにぃぃぃ!?」 ※4人+α
「そ、そんなに驚くことなのか?」
「い、いや、驚くもなにも、この前のお前の返答聞いたら、『今日もお前が作った』って考えるだろ~が」
「うんうん」※デュオ以外の3人+α
「そんなものなのか?」
「そんなもんなの」
「まぁ、一般論的にそう思うのが普通だろうね」
「俺にはよく分からんが、最近料理に目覚めたらしくな。ただでさえわずかな時間をフルに料理の練習に……、ここ数日は弁当に使える料理をと……」
「うわ~、つくされてる~、ヒイロ。リリーナさんの愛情手料理独り占め~」
「俺はリリーナと共に生活している。必然的にそうなるのは当たり前のことだろう」
「…………まぁ、当たり前と言やぁ、当たり前かもしんねぇな」
「でも、それも面白いかも。僕もドロシーにお弁当作って~って頼んでみようかな?」
「止めておけ、カトル。やはり料理に使われる材料とそれに伴う材料費、それに調理道具の費用、キッチンの修繕費、さらにはカタロニア家使用人たちの心労が無駄になるぞ」
「ひどいなぁ、トロワ。ドロシーは見かけによって意外と料理上手なんだよ。そういうトロワだって、キャスリンさんに作ってもらえばいいじゃない。最近サーカスじゃあ、ずっとトロワが夕食当番なんでしょ?」
「キャスリンの得意料理はスープ類だ。しかも、お世辞にもあまり上手いとは言えたものでもない。サーカスの平和を守るには、キャスリンに料理をさせてはいけないんだ……」
「そう言えば、いつぞやは、まずいスープを馳走になったな……」
「五飛も、トロワも、それ、キャスリンさんの前では絶対言っちゃダメだよ。彼女に対して失礼だし、傷つくと思うな」
「安心しろ、カトル。本人ご公認、すでに自覚済みだ」
「………………………………(^^;」
「その点、ヒルデは料理めちゃくちゃ上手いぜ~!」
「ヒルデさん、家庭的な人ですしね」
「フンッ、あからさまなのろけだな」
「なんだよ、五飛。自分に手料理を作ってくれる可愛い彼女が居ないからって、そうひがむなよな~」
「お、俺は、ひがんでなんか……」
「家に帰れば、うまそーな匂いがキッチンからぷ~んと漂っててさぁ、玄関先で腹の虫がグ~ってなもんよ!」
「のろけだな」
「ああ、確実なのろけだ」
「くだらん」
「まぁまぁ、五飛、うらやましいって素直に言えばいいじゃないですか。あ、でも五飛の場合、サリィさんやレディ女史のほうが忙しいでしょうし、マリーメイアちゃんに頼んだらかえって五飛の気苦労が絶えないでしょうね」
「カトル、それ本人たちの前で言えるか?」
「やだなぁ、そんなこと言ったら明日の地球は拝めませんよ~」
「明日の地球……って、コロニー生まれだから、言える格言だよなぁ~……」
「ところで、なぜここにゼクス・マーキスが居るんだ?」
「え、ミリアルドさん、さっきから居ましたよ。さっきだって、ちゃんと『ああ、確実なのろけだ』ってデュオに突っ込んでましたし」
「居ちゃ悪いか?」
「まぁ、そうヒネなさんなって、ゼクスのダンナ~。ど~せ、可愛いリリーナお嬢様に会いにきたんだろ~『ヒイロ~!可愛いリリーナに近づくな~!!』ってさ」
「カトルといい、デュオといい、私はそんなしゃべり方はしないし、ヒイロを目の敵にした覚えはない!」
「された覚えはあるが……( ̄_ ̄〆」
「……はて、そうだったかな?( ̄∀ ̄」
バチバチバチバチバチ……
※ヒイロ⇔ミリアルド間で火花が散っている
「だ、だけど、リリーナさんの手料理か~、うらやましいね。ね、デュオ」
「そうそう、俺もこの前リリーナお嬢さんがヒイロと晩飯食ってるとこに出くわしちゃったしな~」
「うわ~、お邪魔虫は疫病神より嫌われるよ~、デュオ」
「馬に蹴られてなんとやらだな」
「ヒイロなら完膚なきまでに蹴り飛ばしそうだな」
「俺は馬か」
「そんでもって、『ヒイロ、はい、あ~んvv』とか言って、食べさせてもらっちゃってたりするんだよなぁ」
「事実無根だ」
「……………………………………………お…おのれ」
「相変わらず、リリーナさんとラブラブなんだから、ヒイロってば」
「ヒイロぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!きぃさぁまぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「……だから、事実無根だと……」
結局、いつもの通り、飄々と何気に熱々カップルぶりを見せるヒイロと、シスコンぶりを発揮して叫ぶ名物男ミリアルド、そして周りでミリアルドを抑える4人であった。
合掌。
婿と姑の戦い(笑)
あ、それはお題じゃないか。
あ、それはお題じゃないか。
4 まくらならべて
狭いシングルベッドに枕2つ。
いつの間にか、それが定着してしまった。
シングルベッドなのだから、枕の数と同じ人間がこの上で眠れば、狭いことは目に見えている。
だが、これでいいとも思えてしまう。
自分が一人きりではないという証のようにも思えるから。
たとえ、離れていても、ここに帰ってくる。
そう思えるから。
み、短い……
5 コミュニケーション
「なんじゃこりゃぁ……」
その日、外回りの仕事から帰ってきたデュオ・マックスウェルの第一声はそれだったという。
それもそのはず。
目の前には、信じられない光景。
「し~……」
思わず大声を出してしまいそうになったデュオに、人差し指で静かに、とゼスチャーするのはリリーナ。
慌ててデュオはそのおしゃべりな口を両手で押さえ、頷いた。
「どうしたんですか、デュオ?」
後ろから、入ってきたカトルに、慌ててデュオは静かにというゼスチャーをする。
「?」
首を傾げるカトル。
デュオは、その理由を指差した。
その先に居たのは、ソファーにくつろいで微笑んでいるリリーナ……と、ヒイロ。
「あらら……」
思わず、そんな言葉が出てきたり。
「……珍しいよな」
「ええ、リリーナさんならともかく、ヒイロが僕たちの気配で目を覚まさないなんて」
ひそひそと、デュオとカトルは頭寄せ合って、目の前の珍しい光景に驚いている。
ヒイロは、眠っていた。
連日の疲れだろう。
応接用に設置されたソファの上、デュオやカトルが入ってきても、その気配に起きることはなかった。
そのヒイロの横で、リリーナは微笑んでいる。
「リリーナお嬢さん、さっきからずっとそうしてるのか?」
小声で、聞いてみると、リリーナはニッコリ笑って頷いた。
「それで、幸せ?」
不思議そうにそう聞くデュオに、リリーナは「とっても」と小さく返す。
あのヒイロが、他人の気配で目を覚まさない。
それだけ、信頼されているということだろう。
リリーナにはそれがわかっている。
だから、側に居られるだけで嬉しい。
安心して眠ってもらえることが嬉しい。
心が通じている。
それはこういうことかもしれない。
そして、それが二人のコミュニケーションなのだろう。
出来れば、ヒイロはリリーナの膝枕を希望
6 メッセージ
「?」
まわされてきた四つ折のメモ。
通信技術の発達した昨今、こういうレトロな手段は珍しい。
第三者に漏洩する確立も高く、証拠も残りやすいこの手段を使ってきた人間は誰だと、目を通す。
くしゃり、とメモを握りつぶすと、立ち上がった。
メモを回してきた本人の前に立つ。
「あら、ヒイロ」
迎えうつは、地球圏統一国家の、……いや世界のリリーナ・ドーリアン外務次官。
「何を考えている」
「何って、ヒイロはランチ、どうするのかしらと思って」
「そういうことは直接聞けばいいだろう、すぐ側にいるんだ」
そう、二人の距離はデスク二つ分ほど。
「だって、そのほうが内緒の話みたいで楽しいじゃない」
「昼飯どうのこうので、内緒話もないだろうが」
「なんだか、授業中に回す内緒のメッセージみたいでドキドキしませんか?」
わたくしそういうことにあこがれてましたのよ、とニコニコ、屈託のない笑顔。
対するヒイロは、学校に通った経験はあっても、そんな理屈わかるわけない。
ニコニコニコニコニコ……。
「…………」
わかるわけがない……。
大きなため息ひとつ、こういう場合先に折れるのは彼だろう。
「…………行き先を決めておけ……」
「は~いv」
至福の笑顔を浮かべたのは、この世で一番愛しいアイドル外務次官。
有名人の秘書というのも、なかなか大変だ。
さて、問題のメモに書かれたメッセージ。
『 ランチタイム、ご一緒しません? 』
設定を勝手に捏造。(笑)
ヒイさんはリリ嬢の第一秘書兼護衛っつーことで。
ヒイさんはリリ嬢の第一秘書兼護衛っつーことで。
7 先生と生徒
「ユイ先生!」
自分を呼ぶ声に足を止める。
振り返ると、駆け寄ってくるこの学科では珍しい女生徒。
彼女は、かなり向こうから走ってきたのだろう。
自分の側まで来ると、大きく息をついた。
確か、彼女の名前はリリーナ・ドーリアンだったと記憶している。
「……なにか?」
平素から、自分に用だとやってくる生徒は珍しい。
特に、彼女とは数種のプログラミング授業を受け持っているだけの間柄だ。
「え~と、あの、その……」
もじもじと、目の前の女生徒は言いにくそうに。
「あの、先生の授業で、少しわからないところがあるので、その……」
彼女が理解できていないと言うのは、自分の教え方が悪かったのだろう。
そうヒイロは判断した。
「すまない、俺の力不足だ」
「いえっ、ちがいますっ、ユイ先生の授業、わかりやすいです」
謝るヒイロに、慌てて首を振る彼女。
蜜色の長い髪が揺れる。
「ただ、わたくしがちゃんと理解できていないだけのことで……、すいません」
「いや、しかし……」
「だから、あの、ご迷惑でなければ……教えてもらえませんか……?」
語尾に近付くにつれ、小さくなる声。
真っ赤になって、俯き加減で。
そのしぐさが愛らしいと思ってしまうのは、男の性だろうか?
「別にかまわないが……」
ヒイロの返答に、パァッと明るくなった彼女の笑顔。
「ありがとうございますっ」
しかし、残念なことに、次の授業を知らせる予鈴。
「放課後、お邪魔してかまいませんか?」
「ああ、かまわない。俺は教務室にいるはずだ」
ヒイロのみ、担当学科と教務の特性上、全体の職員室とは別の場所に教務室がある。
「はい、よろしくお願いしますねっ」
と彼女はぺこりと一礼、次の授業に出るべく走っていってしまった。
ふわりとした空気を残して。
教員生活数年目。
これが運命の出会いだったと、考えもしなかった。
だが、この約束が二人をつなぐきっかけになろうとは。
先生と生徒。
当分は微妙な関係。
ど こ の し ょ う じ ょ ま ん が だ こ れ は。
Majiで砂吐く●秒前←オイ
8 kiss kiss kiss
何度も交わすキスの数だけ
アイシテルと伝えたい…………
「何回くらい、キスしたのかしら……?」
「さぁな」
何度も何度も、お互いの熱を感じながら、眩暈がしそうなくらいのこの思いを感じ続ける。
「これから、何回キスするのでしょうね、わたくしたち」
「さぁな」
そっけない彼の言葉。
「あなたを好きって思うごとに、したくなりそうだわ」
クスクスと、小さな微笑。
でも、「好き」と思うたびだけじゃ、どこか物足りない。
「だったら、ずっとしていないと間に合わないな」
「あら、本当だわ」
このあふれんばかりの思いは、キスだけじゃ伝えきれない。
だ か ら こ れ は ど こ の し ょ う じ ょ ま ん(以下略)
9 メリークリスマス
『恋人はサンタクロース』
いつの時代の唄だったかしら?
「何のマネだ、デュオ、トロワ、カトル」
「何って、どう見てもサンタクロースじゃねぇか」
「この時期はこの格好をすると、客にウケが良くてな」
「今年はね、ドロシーにクリスマスプレゼントもって行くときは、この格好で驚かせるって決めてたんだ」
「……………………」
目の前に、赤い服の3人。
フルフルと、顔を真っ赤にして小刻みに震えている五飛。
本人は必至に笑いをこらえているつもりのようだが、結論としてまったくこらえられていないサリィ。
「ふむ、マリーメイアのために、ぜひうちにも出張してもらおうか」と頷いているのはレディ・アン。
「ヒイロの分も用意してあるんぜ、ほれ」
デュオのサンタ袋から、取り出されるサンタスーツ。
「このかっこでお嬢さんにクリスマスプレゼントのひとつふたつジャジャ~ンとお届けすれば、リリーナお嬢様大喜び間違いなしだぜ!」
「……却下……」
猛烈に頭痛がするのは気のせいか?
そして、ふと何かを思いついたようにカトル。
「デュオ、トロワ、五飛も、ついでにサリィさんとレディさんもちょっと……」
と、ヒイロ以外の皆を手招きすると、ぽそぽそと何かを耳打ちし始めた。
時折、デュオの「おおっ」や、サリィの「楽しそうねぇv」や、五飛の「くだらん!」ということばが聞こえるが、蚊帳の外であるヒイロには、その集団が何を話しているのか、わからない。
「この方向でいいですね?」
というカトルの締め。
なにがいいのだ?と思ったときにはすでに時遅し、さっさとこの場を退出していればよかったと後々後悔することになる。
くるっとこちらを振り向いたサンタ3人組の顔。
ニヤリと、どこか怪しい笑み。
ため息をつきながら、「贈答用のラッピング材など、本部にあったか?」と棚をあさり始める五飛に、「今回はウィナー家がスポンサーだ。特注でいいだろう」と、宅配業者に連絡をつけるべく電話帳をめくり始めたレディ・アン。
「すっごぉくた~のしくなりそぉね~!」と注射器とアンプルを取り出し、なにやら薬を調合し始めたサリィ。
嫌な予感が頭をよぎる。
逃げろ、とヒイロのエージェントとしての勘が、危険を察知していた。
「デュオ、トロワ、失敗は許されませんよ。いいですね?」
「あったぼうよ~」
「了解した。一撃必殺だ」
「!!」
壮絶な物音と、抵抗による乱闘音が響いたのち、プリベンター医療班班長サリィ・ポゥの的確な処置によりこの戦いは赤服サンタ3人衆の勝利と相成る。
「さて、デコレーションを急がなくては」という、カトルの声を、ヒイロは遠くに聞いたような気がした。
『恋人はサンタクロース』
だが、この場合は『恋人は友人がサンタクロース』
ヒイロには、悪魔のようにしか見えなかったが。
『恋人はサンタクロース』って、誰の唄でしたっけ?(オイコラ)
10 ささやき
時々、耳元にふわっとささやかれる言葉。
今日の晩御飯、何にする?とか、
たわいのないやり取りだったり、
大好き、と
恥ずかしそうな、愛の言葉だったり。
耳元で、やわらかく響く。
心地よい音。
そして、その後のはにかむような笑顔。
彼女のささやきは、いつでもやさしく。
そして、なによりも甘い。
また逆もしかり?
11 シャワー
「お前、ほんとに健全な青少年か?」
デュオの言葉に、ヒイロは首をかしげた。
「この状況で、なんとも思わねぇのかよ!?」
「だから何をだ?」
とあるコロニーの、とあるホテルの一室。
居るのはヒイロとデュオ。
本日の任務は、2人で地球圏一最重要人物の護衛だったりする。
よく耳を澄ませば聞こえてくる、シャワーの水音。
そして、シャワーを使っているのは、リリーナ。
「だからぁ、リリーナお嬢さんがシャワー浴びてるだろ?」
「それがどうした?」
じれったそうに、デュオはぶんぶんと手を振る。
「だ~か~ら~!!」
ついでに迷惑にならない程度に大声も出してみようじゃないか、この朴念仁のために。
「自爆したくなるほど大好きなリリーナお嬢さんのシャワーシーンだぜ?!
ちょっとだけでも覗いてみたい!とか、思わねぇのかよ!!」
「思わんな」
即答。
「か~っ!お前ほんとに健全な青年かよ?好きな女の子が無防備にシャワー浴びてるんだぜ?普通こういう状況なら、見たい!触れたい!押し倒したい!って、思うのが健全な青少年っつーもんだろうが!」
オレなんて、ヒルデがシャワー浴びてるってぇだけで、夜9:00台に放送できねぇことバリバリ大妄想だぜ!
「それはお前だけだ」
何をバカなことを言っているんだこいつは、と言わんばかりの目つき。
さらに、トドメをさすかのように、ヒイロはこうのたまった。
「見慣れているものを、いまさら覗いてどうする」
デュオは大きくため息を付いた。
「はぁ、見慣れて…………」
………………………………ん?
「………見、見慣れてる?!」
一息置いて、ようやくヒイロの言わんことを理解したデュオ。
「ええぇえぇえぇぇえぇぇぇえぇええぇええっ!?」
デュオの驚きの声が、ホテルの一室に響き渡った。
今度はしっかりと近所迷惑になる声で。
ヒイさん、あんた見慣れ取るんかい?!(笑)
12 秘密の恋人
『リリーナ・ドーリアン外務次官、熱愛発覚?!』
『お相手は、専属護衛官か?!』
そんな見出しで一面を飾ったスポーツ新聞は、その日の売上を発刊至上最高記録としている。
「まぁ、なんだか芸能人にでもなったような気分ですわね~」
「フッ、真実は噂よりもさらに強烈だがな」
「それに、専属護衛官って、間違いなくヒイロだし~ぃv」
「2人がすでにアッチッチ~だなんて知れたら、大騒ぎだよなぁ~」
「フンッ、ようやく貴様も年貢の納め時ということだな」
「………………(汗)」
一部の新聞を6人で覗き込んで、その上を飛び交う言葉に、ぐうの音も出ないヒイロ。
頭の中では、いつどこで情報が漏れたのだ?でっちあげとしても、なにかしらのきっかけがなければこういうことに発展するはずがない。
あのときか?このときか?それとも……。
ヒイロの頭は、超高速を誇る最新型補助記憶装置も真っ青な速さでここ数ヶ月のことを検分している。
「さぁ、ティータイムにし~ましょっ♪美味しいクッキー買ってきたのよ~」
給湯室から出てきたサリィとレディ・アンの手には、薔薇模様のティーセットとクッキーの乗った皿。
紅茶のほのかな香りが、部屋を包む。
「あ、この香り…」
「これは『チョコレート』ですね」
「わかる~?最近紅茶にはまっちゃってね~」
香りで紅茶の種類を当ててしまうリリーナとカトル。
さすが上流階級の坊ちゃん嬢ちゃんだけのことはある。
「ヒイロはフレーバー系の紅茶がお気に入りですのよ」
「へぇ、それは初耳だなぁ」
何気に己の趣向を暴露されて、視線が自分に集まるのを感じ明後日の方角をみるヒイロ。
そうか、そうか、好みをしっかり把握されるくらい仲がよろしいことで。
ヒイロを見る目が、しっかりとそれを物語っている。
「べ、別に……」
「いやいや、お前にだって好き嫌いはあるよなぁ~」
「そうそう。照れることじゃないよ、ヒイロ」
「ほう、意外と甘い香りが好きなのだな、ヒイロは」
部屋を包むチョコレートのような甘い香り。
レディの言葉に、リリーナを覗く他の面々が、まるで何かいたずらを思いついたかのようにニヤリと口元を緩ませていたことを、ヒイロは気づいていない。
ティータイムも終わり、リリーナは次の仕事へ、ヒイロはその護衛にと出て行く時間になる。
2人を見送った直後、カトルが楽しそうに口を開いた。
「ねぇねぇ、僕、いいこと思いついちゃったんだけど」
「あ、お前も?俺も思いついちまった」
「わたしも、わたしも」
「フッ、奇遇だな、俺もだ」
「不本意だが、俺も同意しよう」
「じゃぁ、作戦会議」
カトルだけではない、皆同じようなことを思いついたようだ。
数週間後、世界中に出回る新聞という新聞の誌面を飾ったおめでたい(?)ニュースにより、各誌売上最高記録を、その数ヵ月後大幅に塗り替えられることになろうとは、この時点で誰も、当の本人らでさえも想像していなかっただろう。
そう、今回の黒幕と言っても過言ではない元ガンダムパイロット4人とその上司2人を除いて……。
つーか、最初の情報をリークしたのもこいつら。
2004.3.8
紅茶の種類を紛らわしく表記してあったのを、とある方にご指摘いただきまして、修正いたしました。ご指摘くださった方に改めて、この場で感謝します。m(_ _)m
13 ないしょのデート
『こちら、"踊るピエロ"、目標はA地点を通過』
『了解、そのまま監視を続けてください』
『了解した』
『こちら"笑う死神"、アクシデントの準備バッチリだぜ!』
『ありがとう、君はそのまま待機ね』
『OK、OK!』
「……カトル……、俺たちは一体何をやっているんだ……」
「もう、だめじゃないか、五飛。今のボクは"黒い貴公子"で、君は"叫ぶ双子竜"なんだよ。それに、今は大事な任務遂行中じゃないか!」
「だ~か~ら~!何故こんな茶番をする必要があるんだ!」
「何故って、そりゃ、あのヒイロとリリーナさんがデートだよ、デート」
「それがどうした」
「あのヒイロだよ?あのヒイロが、まともにレディをエスコートできると思う?」
五飛の頭では、想像することすらできない。
「…………」
「できると思わないでしょ!だから、僕たちがこうやって、ヒイロが完璧にリリーナさんをエスコートできるようにお膳立てしてあげてるんだよ!」
出刃亀とどうちがう?
今の五飛に、その言葉は口にできなかった……。
「リリーナさんは、世界のリリーナさんだよ。デートだって、世界のリリーナさんにふさわしいエキサイティングでスリリングでファンタスティックなうえに、おまけでエレガントじゃなきゃ」
お~い、黒い貴公子さ~ん。
何気にとんでもないことを口走ってませんか~?
つーか、エレガントがおまけですか~?
「だから、僕たちがヒイロに協力しなきゃ。これはヒイロの親友である僕たちが、ヒイロに対するささやかな贈り物なんだよ!絶対に成功させなくちゃいけない任務なんだよ!」
目をキラキラと輝かせ、両手を胸の前で組み合わせたカトルは、すでに自分の立てた計画に心酔しているようだ。
というより、いつから任務になったのだろう?
「頭痛くなってきた…………」
頑張れ、叫ぶ双子竜!
慣れてしまえば、怖いものはない!
……………………え?
どっちがないしょなんだ?!
ちなみに、サリィは"衛生班の美少年探知機"、レディは"赤薔薇の二重人格"というコードネームだったり。( ← オイオイオイオイ)
14 たまには……
「ねぇヒイロ、たまにはこういうのもいいんじゃない?」
「?」
カトルが指差すは、目の前の大きな花壇いっぱいに咲く色とりどりのチューリップ。
「言っている意味がわからん」
それもそのはず、今現在、L2コロニー郡のひとつで強盗騒ぎが勃発。
2人は、制圧のために、敵地へ侵入したばかりなのだ。
「それにしても、許せないよね。こんな場所に立てこもるなんて」
閑静な住宅街。
2人が侵入したのは、某市会議員の邸宅。
もちろん、人質が、その某市会議員なのだ。
「さっさと解決して帰んなきゃ。ドロシーとリリーナさんへのプレゼントを一緒に見に行くって約束してるんだよ……」
「そのことか……」
花壇の影から邸宅内部を伺いながら、ヒイロはカトルの言わんとしたことをようやく理解したようだ。
「そう、それだよ!」
ヒイロがめずらしくまともにこちらの言いたいことを理解してくれたと、カトルは勢い込む。
「君もさ、手作りのテディベアじゃなくてさ、たまにはお花とかさ」
カトルは、一ヶ月先のことを言っているのだ。
一ヶ月先には、リリーナの誕生日がある。
彼女のリクエストで、毎年・年中、なにかプレゼント贈りあうイベントがある度に、いろんな種類のテディベアを贈りつづけているのは、すでに仲間内では有名な話だ。
「クマの手にチューリップを持たせろというのか?それとも、今度は花模様のクマにしろというのか?」
「………………」
毎回、意外性の大きいヒイロの解釈には驚かされてばかりなのだが、今回も期待を裏切らないお約束さかげんに、カトルは思わずその場で脱力した。
「あのね、言葉の意味は、そのまま解釈してくれてかまわないんだよ。ヒイロ」
つーか、普通はクマ以外を贈れって素直に解釈するだろーが。
うちのヒイさん、どんどん天然ボケの気が出てきたような気がする……(汗)
はっ!気が付いたら、ヒイリリなのに、リリーナでてこないよ!(爆)
うちのヒイさん、どんどん天然ボケの気が出てきたような気がする……(汗)
はっ!気が付いたら、ヒイリリなのに、リリーナでてこないよ!(爆)
15 姫
「い~や、やっぱりこっちだよ」
「なに言ってんだよ、彼女ならこっちだろ~」
久々にプリベンター本部に出勤してみれば、目の前でデュオとカトルが言い合っている。
「俺はどっちでも良いと思うが……」
「後は演出でなんとかすればいいんじゃない?」
まぁまぁ、と、見かねて側に居たトロワとサリィが2人をとりなすが、
「なに言ってるんですか、どっちでも良くないですよ!」
「そうだぜ、例え演出がどんなによくっても、元が悪けりゃ意味が無いんだぜ!」
「元が悪いって、聞き捨てなりませんねっ!」
「へんっ、正直にいったまでだよっ!」
「勝手にしてくれ……」
サリィは苦笑し、トロワはため息をつく。
五飛に至っては、あまりのばかばかしさに、この場にすら居ない。
「ねぇ、ヒイロ!ヒイロならこっちだよね!」
「なに言ってんだよ!こっちだよな、な、ヒイロ!」
「……………………(汗)」
ヒイロの目の前に、ずいっと突き出される2冊の絵本。
「やっぱり、女の子なら、シンデレラだよね!」
「シンデレラよりも、やっぱり白雪姫だよな!」
突き出された本の正体は、子供なら一度は目にしたことがあるであろう童話の絵本。
「……それがどうした?」
2人の迫力に、思わず後ずさりたいのを何とか押し留め、ようやく一言ヒイロは疑問を口にする。
何故、この2人は絵本ごときで言い争いをしているのだろうか?
「なにって、ヒイロのところのアイビーちゃんにじゃないですか!」
「そうだ、そうだ!もうすぐハロウィンじゃねぇか、そのときの衣装だよ!」
部屋備え付けのカレンダーを見れば、確かにハロウィンの日付にご丁寧にも赤ペンで花丸がしてあった。
「なぜ、お前らが、アイのハロウィン衣装で言い争いをする必要があるんだ?」
もっともな疑問。
その疑問に、デュオとカトルの2人は愚問だと言わんばかりにこう答えた。
「アイビーちゃんは、僕たちにとっても大事な娘みたいなものなんだよ!可愛いあの子の晴れ舞台に、最高の衣装をエスコートする!しかも、ハロウィンだよ!女の子はやっぱりお姫様の衣装を!当然のことじゃないか!」
「そうだそうだ、うちんとこのガキは放っておいても、アイビーに用意してやりたい親心!お前も分かるだろうが!」
「なに言ってるんだよ!デュオは、ソロ君がいるじゃないか!ヒイロの家庭にまで手を出すなんておせっかいだよ!」
いや、それはカトルも一緒だろ……。
その場に居た、デュオとカトル以外の者は、皆一様に同じことを突っ込みたかったが、突っ込もうものなら、明日の太陽は拝めまいと悟ってもいた。
ヒイロは、大きくため息をつき、こう一言。
「今年は、リリーナがすでに衣装を作っている」
忙しい仕事の合間を縫い、せめてこういうときだけでも手作りのものをと、リリーナはヒイロに手伝ってもらい衣装作りに精をだしていたのだ。
「ほう、よくそんな余裕があったな」
「そうよ、彼女忙しいでしょうに……」
「俺も手伝った、問題はない」
リリーナの激務を知るトロワとサリィが感心している。
そして、サリィの言動が、今まで言い合いしていた2人に一撃を入れていた。
「そうよね~、やっぱりおせっかいな他人より、パパママの愛情たっぷりの方がいいわよね~♪」
グサッ!
「……………………さすがだな」
「五飛が苦労するだけのことはある」
ここには居ない、彼女の相棒役に少し同情してみたり。
「ところで、ヒイロ。どんな衣装を用意してあげたの?」
自分の一言が、デュオとカトルにぐさりと突き刺さったとは気付いていないサリィ。
興味あるわ~と、聞いてくる。
それに対し、ヒイロはこう答えた。
「クマの着ぐるみだが」
またクマか…………。
ある意味、このお約束な選択を、突っ込めるものはこの場に居なかったそうだ……。
トドメは、アイビー’sからでした!(←ネタが思いつかず逃げた)
大体アイビー2~3歳頃のお話。
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